エアー家庭教師
投稿者:ねこじろう (147)
新しい問題集を持参し、俺はSさんの家に伺った。
千尋ちゃんの部屋に入ると、学習机の前の椅子は既に机から1メートルほど離れている。
俺はさっそく購入した高校受験用の問題集を出した。
そして「じゃあ今から1時間で、これを解いてみようか?」と言うと、今日の課題個所を開いて机の真ん中に置いた。
俺は時計で時間を確認してからベッドの端に座り、半信半疑のままコミックを読み始めた。
そろそろ1時間になろうかという時、部屋のドアがノックされ奥さんが入ってきた。
コーヒーとケーキを二つずつ乗せたトレイを俺の座るベッドの横に置くと「よろしかったら、どうぞ」と小声で呟き出て行った。
コーヒーを啜っていると時間がきたので立ち上がり、机の上の問題集を見てみる。
信じられない光景がそこにあった
解答欄のほとんどが拙い丸文字で埋まっているのだ。
俺は解答の冊子を片手に震える手で赤ペンを持ち、添削をしていった。
すべての添削を終えた後「もうちょっと頑張らないと、志望校は難しいぞ」と言って今度は違う課題個所を開いて、机の真ん中に置く。
それからまたベッドに座ったとき、思わず「あっ」と声を出してしまった。
ショートケーキが一つ、きれいに食べられていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
それから数か月が過ぎ、あっという間に年が明けた。
姿の見えない俺の教え子は、なんとか最後まで課題をこなしてくれた。
ただちょっと気になることがあった。
それは最初に会ったSさんのことだ
あれ以来一度も顔を合わせたことがない。
帰りの遅い仕事なんだろうか?
そして家庭教師の最終日である2月の最初の土曜日のこと。
帰り際の玄関先でSさんの奥さんが「先生、長い間、本当にありがとうございます。
おかげで千尋もちゃんと勉強をするようになってくれました」と言い、深々と頭を下げた。
俺も最後の挨拶をすると、門を出て路地を駅に向かい歩き始めた。
─ああ、やっと終わった、、、
奇妙な達成感に浸りながら冷たい風の吹く薄暗い路地を歩いていると、背後からまた「ありがとうございます」と声がする。
何気に振り向いた瞬間、俺の背中をぞくりと冷たい何かが走った。
街灯の淡い光に浮かび上がっているSさんの家の門前。
そこに二人の人影が見えていた。
怖い。。虚言癖というか旦那さんが可笑しかったんですね。
家庭教師募集のあたりから、話のなかにひきこまれていった。文章うまいですね。