エアー家庭教師
投稿者:ねこじろう (147)
「……」
困惑する俺を尻目にSさんは続ける
「実は娘の千尋は去年の冬、自室で首を吊って自ら命を絶ちました
原因ははっきりしてました。
私の妻です」
「奥さん?」
「はい。
妻の娘に対する愛情は普通ではなく、明らかに歪んでいて異常なものでした。
特に教育に関しては、、、
彼女は自らの母校でもあるT女子大の付属高校に、どうしても千尋を入学させたかったようです。
理由は娘のためとかではなく、自分のエゴを満たすためだったのです。
そこで中二になると、まず強制的に部活を止めさせました。
そして嫌がる千尋を無理やり、市内ではトップクラスの塾に押し込みました。
しかし成績は上昇どころか、むしろ下がり始めたのです。
妻は苛立ち、千尋に辛く当たり散らしました。
もちろん私は何度となく妻を諭したのですが、無駄でした。
それでとうとう、かわいそうな千尋は学校にも塾にも行けなくなり、ずっと部屋に閉じ籠るようになり外に出なくなりました。
そして去年のクリスマスの日、自室で自ら命を絶ったのです」
そこまで語ったSさんの頬には一筋の涙がつたい、光っていた。
「娘さんは、本当に気の毒なことだったと思います。
ただ今更どうして、家庭教師が必要なんです?」
俺はずっと引っ掛かっていた疑問を、Sさんにぶつけた。
「ええ、ごもっともな疑問だと思います。
実は千尋が亡くなり、葬式を執り行い初七日を過ぎた頃から妻の様子がおかしいのです」
「おかしいというのは?」
「千尋は亡くなってしまったというのに、まるでまだ生きているかのような言動をするんです。
朝になると二階の娘の部屋に行き声をかけたり、夜は食卓に三人分の食事を準備して、夕食中も目の前にいるかのように話しかけたりするんです。
娘はもういないんだよと何度も言ったのですが、ダメでした。
どうやら妻には現実に娘が見えているみたいで。
それで前月、妻にお願いされて私が家庭教師の募集をかけたのです
めちゃくちゃなお願いをしているのは十分承知しております。
教えるふりをするだけでいいんです。
報酬はちゃんと払います。
受験の前日まででも千尋が勉強を頑張ってくれたということで、妻もある程度納得してくれるのではと思うんです」
怖い。。虚言癖というか旦那さんが可笑しかったんですね。
家庭教師募集のあたりから、話のなかにひきこまれていった。文章うまいですね。