エアー家庭教師
投稿者:ねこじろう (147)
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結局俺は8月から毎週土曜日、家庭教師をすることになった。
期限はT女子大付属高校一般入試日である来年2月上旬までだ。
まあ教えるふりをして2時間やり過ごすと一万円もらえるのだから、楽勝といえば楽勝なバイトだ。
8月の第1土曜日の夕方、俺は携帯地図を片手にSさんの家に向かっていた。
電車で二駅めで降り、北へ坂道を歩くこと15分。
山手にある閑静な住宅街の一画にSさんの二階建ての家はあった。
赤茶けた屋根がどこか印象的だった。
時刻はちょうど17時。
ぴったり約束の時間だ。
ポーチに立ち玄関のブザーを押すと、中から女の人の声が聞こえてきてガチャリと鍵が開けられる。
ドアを開くと玄関口に薄いブルーのエプロン姿の痩せた中年の女性が立っていた。
恐らくこの人がSさんの奥さんだろう。
奥さんは白い顔に満面の笑みを浮かべているが、その目には青い隈がありどこか寂しげだ。
奥さんは「今日はわざわざお越しいただき、ありがとうございます」と深々頭を下げ、
「さあ、どうぞ御上がりください」と言う。
俺は型通りの挨拶をし靴を脱いだ
玄関を上がり廊下の左手奥にある階段を上がったところに、千尋ちゃんの部屋はあった。
奥さんは階段を登りきると右側のドアをノックして、
「ちいちゃん、入るわよ」と言ってノブを回す。
中は8帖ほどの小ぢんまりとした部屋だった。
左手奥の窓際に学習机があり、正面壁際にベッドがある。
壁にはアイドルのポスター、ベッドの上には熊のぬいぐるみが置いてある。
いかにも中学女子の部屋という感じだ。
部屋の中は気のせいだろうか、どんよりとした重々しい空気が漂っていた。
「ほら、ちいちゃん、家庭教師の先生来られたのよ。
そんなところで座ってないで、ちゃんと挨拶なさい」
奥さんが誰も座っていない学習机に向かって言う。
俺は部屋に入ると「今日から一緒に勉強、頑張ろうね」と無人の机に向かって爽やかに挨拶をした。
奥さんが部屋から出ていった後、俺は机の傍らに立ち軽くため息をつくと、バッグから数冊の問題集を出し学習机の上に置いた。
怖い。。虚言癖というか旦那さんが可笑しかったんですね。
家庭教師募集のあたりから、話のなかにひきこまれていった。文章うまいですね。