エアー家庭教師
投稿者:ねこじろう (147)
それは大学が夏休みに入った1日目のこと。
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度重なる遅刻でカフェのバイトを解雇された俺は、アパートの一室で朝からだらだらと暇を持て余していた。
ソファーに寝転がり集合ポストに入っていたバイト情報のフリーペーパーを何気に見ていると、とある募集が目に止まる。
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家庭教師急募!
当方、来年受験を迎える中三女子の親です。
週一、二時間程度、ご指導いただける方を探しています。
時給5,000円 交通費別途支給
詳細は以下にお電話を!
090-○○○○-○○○○ Sまで
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─時給5,000円だと?嘘だろ?
俺はソファーから飛び上がり、改めて紙面に目を近付けて何度となく内容を確認する。
そして、テーブルに置かれた携帯に手を伸ばした。
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その日の午後2時。
着なれないリクルートスーツに身を包んだ俺は、指定された喫茶店の窓際テーブルに座っていた。
正面には40過ぎくらいの七三分けの実直そうなSさんが座り、熱心に俺の履歴書に目を走らせている。
しばらくすると彼は履歴書から顔を上げ、こう言った。
「もし、来ていただけるなら、いつから大丈夫ですか?」
「はい明日からでも大丈夫です」
時間は腐るほどあったから俺は自信を持って答える。
Sさんは一回コーヒーをすすると、しばらく物憂げな表情で窓の外を眺めていた。
そして改めて俺の方に向き直り、こう言った。
「びっくりさせるかもしれませんが、うちには今子供はいないのです」
「は?」
Sさんの意味不明な言葉に、俺はコーヒーを吹き出しそうになる。
「いや、あの、募集欄には中三女子と」
「はい、確かに今年の春から三年生になる予定でした」
怖い。。虚言癖というか旦那さんが可笑しかったんですね。
家庭教師募集のあたりから、話のなかにひきこまれていった。文章うまいですね。