庭に侵入したモノの正体

それも猛ダッシュだった。

『ﾀﾞﾀﾞﾀﾞﾀﾞﾀﾞ！』

『ｷｬﾝ！』

一瞬の出来事だった。

不審者が突然走り出した音で鹿が『ｷｬﾝ』と一際大きな鳴き声をあげて逃走したっぽい。
不審者の足音をかき消すように鹿が草木をもろともせず走り去る音が上書きした。

すかさず俺は窓から懐中電灯を照らした。

最初は窓に光が反射したせいで俺の視界が遮られてしまったが、僅かに庭でこっちを見上げる仕草をとる不審者のシルエットが見えた。
しかし、不審者は懐中電灯で照らされた瞬間に鹿のように猛ダッシュで逃げてしまった。

だが、それでも問題はない。
不審者が立ち止まった位置はカメラを仕掛けた場所なのだ。
これで不審者の姿が映っていれば警察に提供すればいい。

早朝、さっそく親に昨晩不審者が庭にやってきたと伝えると、親父は「まじか！」とご飯を喉に詰まらせていた。

それで、カメラを取り外して録画した映像を家族で確認したんだが、ある意味で後悔した。

そこには裸の中年太りしたおっさんが映ってたんだ。

不審者は変質者だった。

お袋はめっちゃ引いてたけど、親父は半笑いで警察に通報してた。
てか、この裸のおっさんは人ん家の庭で何をしてたんだろう。

ちなみに、警察に通報して五年が経っているが、未だに何も進展がないようだ。
当時は回覧板で近所にも通知されたが、この変質者に近所のおばちゃん達は震え上がったものだ。

と言うか、マジであのおっさん何だったんだろう。