親心
投稿者:件の首 (54)
小さい頃、僕は交通事故で両親と弟を亡くしている。
当時の事は覚えてないが、孤児院の先生によると、高速道路でハンドルを切り損ね、防護壁に正面衝突したそうだ。
その時の傷が首に残っている。
もう少し深ければ、頸動脈が切られていたに違いない。
時折両親の夢を見る。
正直なところ、もう2人の顔も覚えていないのだが、夢の中の両親は僕にとても優しく微笑み、手を握ってくれる。
力強い感触で、目が覚めた時に痣が残っている事もある。
今でも僕を愛してくれている。そう思うと、心強い。
20歳を迎えた時、主治医から連絡が入った。
なんでも新しい手術法が開発されため、今まで摘出を断念していた心臓に食い込んだガラス片を取り除ける、との事だった。
いつ心臓に穴を開けるかもしれない時限爆弾、などと言われていた為、手術は願ったり叶ったりだった。
全身麻酔が抜ける直前、夢を見た。
いつもよりもやけにくっきりした夢だった。
両親は僕の手を握りしきりに何か言っている。母は抱きつきさえした。いつもよりずっと力強い。
途中で、これが夢であると気付いた。
いつものより解像度が高かった。ふと見ると、足には弟がしがみついていた。
全員の愛情を感じる。彼らの分まで生きよう。
『――ぉ……ぃで』
その時、声が聞こえた気がして、親の顔を見た。
『おいで……』
『さあ、来なさい』
『行こうよ……』
僕は、彼らの声を聞きつつ、夢から覚めていった。
手術後、孤児院の先生から、改めて僕が死んだ時の話を聞いた。
「君の家族が死んだのは、事故じゃない……無理心中だったんだ」
「心中?」
「借金苦でね。サービスエリアで君たち2人の首を切った。他の人に感づかれて逃げようとして車を発車させたが、出口のポールにぶつかって死んだんだよ」
「……って事は、今まで夢に出ていたのは」
「あの世に引きずり込もうとする悪霊だね」
悪霊退散のお祓いを受けたところ、夢はぴたりと止んだ。
守護霊と思ったら悪霊だったとか、まったく酷い勘違いだ。
もしも手術の後、誘われるままについて行ったら、と思うと心臓が縮む思いがする。
どんな理由にせよ、貴方は生きる運命だったのだから。
幸せになってください。
手術後、孤児院の先生から~
でゾクリとしたが、、◯んだわけではなかったんですね。
違う意味で怖かったです。