仕事を終えて自宅に帰ると流木は位置を変えず佇んでいました。
変な物を拾ってしまったと後悔したので週末に海へ帰す決心をしました。
可燃物として捨てようとも思ったのですがどうも気になってゴミとして処分するのに抵抗を覚えたのです。
寝る前に流木を確認したらじっとり湿ったままでした。
手に持つと何とも言えない温かさを感じて一瞬、心を奪われた気がしたのです。
まるで母親に甘えているような安らぎを感じて我に返りました。
2時間ほど寝たでしょうか。
外から女性がすすり泣くような声が聞こえてきたのです。
真っ先に流木を疑って玄関の隙間から覗き込むと流木がゆっくりこちらへ向かってきたのです。
3段の階段があるのですが必死によじ登ろうとしています。
昨日と違って怖さよりも寂しさを感じた私は流木を抱きかかえて部屋に持ち帰りました。
表面は濡れたままですが人肌のような温もりを感じます。
部屋の明かりを点けて眺めていると妙に心が落ち着くのです。
もう一度手に取ると女性のすすり泣く声が聞こえてきました。
声では無く脳に響くような鳴き声です。
不思議なことに全く怖さを感じません。
タオルを敷いてその上に流木をそっと置きました。
すると女性の泣き声が止まりました。
よく見るとくぼみに1cmほどの黄色い布が挟まっていました。
綺麗に洗浄したので必ず気付いていたはずです。
不思議に感じたのですがそのまま無視する事にしました。
どうしても流木の存在が気になったのでこの日は定時で帰宅しました。
直ぐに部屋に戻ると流木はタオルの上にありました。
ほっとして部屋を出ようとしたときです。
「あたしの体・・・探して下さい」
若い女性の声がしたのです。
振り返っても誰もいません。
気のせいかと思い足を踏み出そうとした瞬間、流木がガタガタと震えだしたのです。
金縛りに遭った様に体が動きません。
全身が押さえつけられるような強い圧力を感じます。
全力で足に腰に力を入れて振り返るとそこには長い髪をした20代の女性が立っていました。
シーンズに黄色いシャツを着ており青白い顔をしています。
直ぐに挟まっていた布きれが彼女の着ているTシャツの破片だと気付きました。
「あたしの体知りませんか・・・」
よく見ると右腕がありません。
怖さと同時にこの女性を助けてあげたいという気持ちが沸いてきました。
「腕がないのですね?」
「明日、休みを取って探しに行くので安心して下さい」
そう声を掛けると女性は安堵の表情を浮かべて消えていきました。
食事をして風呂に浸かるとどっと疲れが出て眠たくなりました。
部屋にはあの流木があるのですが不思議と恐怖心が消えています。
あの女性は事件に巻き込まれて殺害されたと仮定しました。
びしょ濡れだったので寒いだろうと思い毛布を出して流木に掛けてあげました。

























際どいお話ですね。
怖くて悲しく切ないです。