近所のレトロな床屋
投稿者:ねこじろう (147)
「さあ……」
全く見当が付かなかった。
マスターはタオルで僕の髪を拭きながら話を続けるんだ。
「スーパーマーケット。
それも若くてチャラチャラした男と楽しそうに手をつないで、買い物の最中だったんですわ。
しかもそのヤロウ、修行していた店の常連さんだったのよ。でね、面白いことに、そのヤロウ、なんとお客さんにソックリなんですわ」
「は?」
リクライニングを倒し、髭剃り用のクリームとカミソリを準備しだした。
「いや、ごめんなさいね。お客さんには何の関係もないんだけどね。でもね本当に似てるんですわ」
─いやいや、そんなことを言われても、こちらとしても困るんだけどなあ……
などと思っていると、蒸しタオルを顔に乗せられた。
「でね、偶然というのは重なるもので、その数日後にそのヤロウ、店に来たんだよね。
しかも間が悪いことに、私が担当になってしまってね」
白いマスクを付けるとタオルを外し、刷毛で僕の顔に髭剃り用のクリームを塗りはじめる。
「でね、そのヤロウ、なぜだかカットの間ずっとニコニコしてるんだよ。
何か良いことでもあったんですか?とそれとなく聞いたら、いやあ、来月結婚することになってねと嬉しそうに言いやがったね。
それでいよいよカーッとなっちまってね。
それで顔剃りしてる時、俺つい、やっちまったんだ」
と耳元で言うと、ジョリジョリと顎の下を剃り始めた。
「え?」
僕は天井を見ながら思わず、声を出した。
「切ってやったんだ……」
心臓が早鐘のように鳴り出す。
・
・
「切ったって、どこを?」
こわごわと尋ねてみた。
「嫌だなあ、お客さんも鈍感だねえ。
ここだよ、ここ!」
そう言うと指で僕ののど仏を押し、ツイーッと横に動かすんだ。
こっわ