美悠の観察日記
投稿者:ねこじろう (147)
何故だろう喉裏に激しい心臓の鼓動を感じる。
額から頬にかけてじんわりと生暖かい汗が流れていた。
ふと、テーブルの上のデジタル時計に目をやる。
午後九時十分。
お腹が空いたので、晩御飯でもと思った時だった。
……ドン!ドン!ドン!ドン!
また、あの音だ。
私は意を決して立ち上がり、玄関先にある階段を昇って、震える手で左側の襖をそっと開けてみた。
窓のカーテンから漏れる月の明かりに照らされ、畳敷きの部屋がうっすら見える。
「???」
何だろうか?
窓際に、黒いモヤモヤとした塊がある。
目を凝らしじっと見てそれが何か分かった瞬間、私の背筋を冷たいものが走った。
それは大型犬のように見えた。
だが、その頭部は犬などではなく、人間の、しかも若い男だ。
裸の若い男が、首には首輪、口には猿轡をはめられ、悲し気な目をこちらに向けながら四つ足で立っていた。
体のあちこちには、痛々しい赤い水膨れや傷がある。
しかも手足の先端には本来あるものがなく、金属製のひづめのようなものが包帯でぐるぐる巻きにして固定されている。
男は何かを訴えるような目で私を見上げると、徐々に周囲に溶け込んでいき、やがてフッと消えた。
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翌朝、会社が休みだったので、昼から私はホームセンターで大きめのシャベルを買ってきて、庭の柿の木の下の土を掘り返した。
三十分ほど掘り進めると、黒いゴミ袋が出てきた。
中には、芋虫のように丸まった腐りはてた男性の骸が、血糊の付いた大きめのナタと一緒に出てきた。
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私は携帯を手に持つと、震える指で110を押した。
【了】
何が許せないの?