自殺の名所案内 あるタクシー運転手の体験談
投稿者:とくのしん (65)
「おつりは結構です。こんな時間にどうもすみませんでした」
男は深々と頭を下げて下車した。暗闇をまっすぐ歩き崖に向かっていく。崖に打ち付ける波音と風音がやけに寂しく感じた。
それからしばらく経ったが、〇〇〇で死体があがったという話は聞かなかった。〇〇〇は海に面した岸壁であるが、飛び込むとなかなか死体があがらない形状になっている。そのため、自殺があったとしても判明しないことが多いという。山中はタクシー仲間に例の男の話をしたが、墓参りしただけじゃないか?気にすることはないといった言葉をかけられた。山中自身もあれは自殺したんじゃないと自分に言い聞かせるように仕事を続けた。
それから1ヵ月程経ったある日の夜中。最後の客を乗せて駅に降ろすと、若い女性客が「〇〇〇へお願いできますか?」と呼び止めてきた。山中は「今日は終わりなんです」と答えたが、どうしても行きたいと懇願してきた。女性のあまりにしつこいお願いに根負けした山中は乗車させてしまった。
走行中、一か月前に同じような状況で〇〇〇へ向かう男性を乗せた状況を思い出していた。あの男は自殺したかどうか定かではない。しかしこの女性は自殺するかもしれない。そんな不安に山中は口を開いた。
「〇〇〇って自殺の名所なんですよ?ご存じですか?」
山中の問いかけに女性は口を閉ざしたまま。女性が返答しないことに対し山中は言葉を続ける。
「こんな時間に行くってことはお嬢さん、あなたもしかして自殺でもするおつもりですか?違っていたら申し訳ない。でも自殺なんか止めた方がいい。自殺するあなたはいいかもしれないが、残された人はずっと苦しみ悲しみ続けることになるんですよ」
1ヵ月前に男を乗せて大変後悔したことも付け加えて女性を説得した。山中の説得を受けてもなお女性は下を向いて押し黙っていた。山中がミラー越しに女性を見ると、女性はゆっくりと顔をあげてこういった。
「私、お父さんに会いに行くんです。」
「こんな時間に?」
「はい。お父さん、1ヵ月前に〇〇〇に飛び込んだんです。」
その言葉の意味をすぐさま理解した山中は凍り付いた。この女性はあの男の娘だと。
あれ?待てよ。確かあの男、娘は“〇〇〇で自殺した”って言ってたはず・・・。それじゃこの女性は・・・
「お父さん一人じゃ寂しいと思うから戻らないと」
山中はミラーを見ることも振り向くこともできず、そのまま車を走らせた。
〇〇〇までは30分程度だったが、とてつもなく長く感じた。目的地に到着し、恐る恐る振り返るとそこには誰もおらず、濡れた1万円が置いてあったそうだ。
山中は言う。
「私は幽霊なんて信じていません。もちろん今でも半信半疑ですよ。でも、あの娘さんはそうだったのかなと思います。自分が父親を〇〇〇へ運んだっていう罪の意識は今でもあります。それでも私が乗せたことで、あの親子があの世で一緒になれたとしたら・・・そう思うと少しだけ罪の意識が軽くなるんです。」
何か切ないな。でも死んでしまったらどうしようもない。
上手い文章。読みやすかった。
親より先に死んではいけない。
さだまさしみたいだな
最近の投稿者の中で一番面白いな
仕事は仕事だけど、つらいな。
Youtubeから来ました!
東尋坊。
自殺者同士は、亡くなってから会おうと願っても会えないのでしょうね。
悲しみのあまり後追い自殺しても、たとえそれが、愛しい家族であったとしても、相まみえることができないのだという悲劇。生前の後悔は、亡くなってから更に増幅され、より大きな悲しみとなって深夜の海を彷徨い続けるのでしょう。タクシーを利用する時は、緊急だったり大変なことを抱えていたりするものですが、ドライバーさんのお仕事は、こうした方々の悲しみや切なさを感じながら、働かれているのですね。
投稿者です。二作目の大賞受賞になりました。怖いを押していただきましたたくさんの方々に感謝致します。ありがとうございました。
怖すぎず、読みやすい!
切ないですね、、、
投稿者様 とくのしん様
大賞受賞おめでとうございます。
切なく悲しい、なによりしっかりと怖さも伝わってくる名作だと思います。
応援しています。
親子の情愛を感じた。どんな事情があっても自殺という選択をしては、いけない。
優しいお嬢さんだ
自殺ってあの世じゃ重罪だからなぁ。
かわいそうだけど