姥捨山
投稿者:九遠 (1)
そのせいでBやCが息を切らし始めたので、僕は「ちょっとペース早いよ」と最後尾から声を掛けますが、Aは「はよ!」といっぱいいっぱいの表情を浮かべていました。
思わず僕は後ろを振り向くと、人影が枝木を掻き分ける様にしてこっちへ向かっているのが見えました。
これはヤバい。
直感でそう意識すると、僕は既にくたくたな様子のCの手を取り「Cちゃん、もう少しだから」と一緒にかけだします。
AはBを半ば抱える様に引っ張りあげて足早に下山していましたが、僕はA程体格がないのでCを連れているとどうしてもA達との距離は開く一方でした。
そして、前方の茂みを抜けた時、足元に蔓が延びていたのか「きゃっ」と小さな悲鳴と同時にCが転んでしまい、連動する様に僕も膝をつきます。
慌ててCを起こすと膝を擦りむいた様で、瞬く間に「うわあああん」と泣き始めました。
僕は後ろから迫ってきてるであろう人影の事で頭がいっぱいでしたが、目の前のCを放っておく事も出来ず、とりあえずは「大丈夫だから、ね?もう少し我慢してね」と頭を撫でた後、再び手を引っ張り上げて殆ど歩く様にして駆け出します。
既に前方にAとBの姿はありませんでしたが、僕はCを連れながらひたすらと下山する事だけを考えていました。
そんな折、かなり離れた位置だと思いますが、遠くの方からガサガサガサ!と物凄い音が聞こえ、あの人影が全速力でこっちに走り始めたのだと思い、心臓が飛び出しそうでした。
とにかく走らねば。
僕は一心にそう思い続け、Cの怪我の具合も考える余裕もなく、肩を担ぐ様な姿勢でひたすら走り続けます。
ガサガサガサ!
一際大きな音が背後から聞こえた矢先、前方の登山道、開けた道の先でAが「急げ!早く!」と手をこまねいている姿を捉える事が出来、僕は少しだけ安堵しました。
あと少し、あそこまで行けばどうにかなる。
不思議とそう思っていたのです。
しかし、Aが居る場所まで数メートル目前、僕は心に余裕が出来たのか、徐に振り返ってしまいました。
振り返ると、未だ距離は開いているものの、あの人影が数体、数十体、下手すれば数百と思われる数が僕達を追いかけて走っている姿が見えたのです。
「ひっ」
上擦った声が出ましたが、僕はCを連れたまま最後の力を振り絞り、Aが居る開けた場所に飛び出しました。
そのまま二人して寝転ぶ様にして崩れると、僕は漸く快晴の空を見上げたまま肩で息をして、Aの方を向きます。
Aは「大丈夫か?」と僕を見下ろしていましたが、僕は「あれは?」といの一番に聞きたい事を訊ねました。
Aは山の方を向いた後に首を振りましたが、僕は少し上体を起こして自分の目で山を確認します。
Aの言う通り、満遍なく山を見渡しても例の黒い人影の姿は何処にも見当たりませんでした。
今度こそ本当に安堵した僕は盛大に手を広げて大の字を描いた後、BとCが無事かどうかやっと確かめる気力を取り戻しますが、二人を見れば近場の石垣に背を預けて心底疲れた様な顔を浮かべて呼吸を整えているところでした。
その帰り道、僕達は殆ど無言でしたが、僕はAに「アレ何だったのかな?」と無意識に聞いていました。
勿論その答えをAが知る由もないので「さあ」と今日一番の短く力無い声で返されます。
その晩、夕食を終えるとBとCはかなり疲れていたのかすぐに眠ってしまいました。
BとCはそれぞれの母親に抱き抱えられて客間に向かい、僕とAは二人で風呂を済ませた後、特に会話をする事も無くそれぞれの客間に戻り就寝する事にしました。
あれほど走ったのは運動会の徒競走以来かもしれない。
僕やAが息切れをする距離をまだ幼いBとCは無理矢理走らされたのだ。
疲れ切って寝入るのも当然の事だ。
ちょっと長かったけど読み応えあって面白かったです
埼玉に姥捨山あるって話を思い出した
夢に出そう
あばばばばばばばば
長野県に姨捨って地名あるよ…
ググってみてください