結論から言わせてもらう。出た、思いっきり出た。
トンネルの真ん中を過ぎたあたりだった。
「ヒッ」
後ろから変な声がした。
吃驚して振り向くと、加賀が右の窓にシールの様に貼り付いて、左側を見ていた。
「左に何かいる。車と一緒に歩いてる」
磁石が反発するように、田中が左ドアから離れる。
「なんだよ、脅かすんじゃ…」
「ドン」
大きな音がリヤウインドウからした。
手形。リヤウインドウの汚れが、綺麗に手の形に切り抜かれていた。
「うわっ」
それからは、よく覚えていない。
多分、アクセルを踏み込んだんじゃないんだろうか。
ハッとして、急ブレーキ。車が止まった時には、トンネルを抜けていた。
目の前には、深い闇。ライトの光も届かない。断崖絶壁だった。
ゾッとした。先に言われてなかったら、ホントに突っ込んでたぞ、これ。
それから、俺たちはどうするかで揉めた。
トンネルを戻るか、夜道を前に進むか。
あの大人しい加賀が怒鳴るくらいだった。それだけ、怖かったんだ。
俺達、みんなが恐怖を感じていた。
結局、トンネルを戻ることになった。
道がどうなっているか分からないのだ。
トンネルを抜けたら、スマホは圏外になっていて、マップを使えない。
俺の愛車、中古の軽、にはカーナビなんてついてない。
もしあったとしても、こんな山道を案内できるなんて思えないけど。
「飛ばしていけよ」
田中が、青い顔で言った。
言われなくても、わかってる。
ハイビーム。トンネルが浮かび上がる。
何もいない。
「行くぞ!」
アクセルを踏み込んだ。
凄い勢いでスピードが上がる。いつもより速いくらいだ。
もしかして、車の奴も怖いのかな。そんなことを、チラッと思った時だった。
道の真ん中に、それが現れた。フワッと、急に湧いて出た。
黒い影。多分、長い髪の女。
「ヒッ」
俺と田中は声を上げた。加賀は、声も出さない。
見なくてもわかる、加賀、下向いて前も見てないだろ。
俺は、そのまま突っ込んだ。他にどうしようもなかったから。
女が、俺と田中の間を飛んで流れていく。
通り過ぎる瞬間に、顔が見えた気がした。
口を開いて、ニヤッと笑っていた。
白い歯だった。
金歯じゃないんだ、と思ったのを覚えている。
俺たちは、トンネルを抜けた。


























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