新しい下宿人

私が下宿をしていた時の話です。

学生時代に親元を離れ下宿舎に入り生活していました。

そこには同じ学校の後輩・同学年・先輩が住み、少人数ながらもそれなりに楽しくやっていました。

下宿の食事は寮母的なおばさんが作ってくれ、時間になると学生用の食堂で食べます。

最初は規則正しく食べに来ていた人も、バイトや外出で食べる時間はまちまち、みんなが揃う事はほとんどありませんでした。

そんなある日、食事の時間になり、私は食堂に行きました。

２つある大きな食卓テーブルの上には夕食がいつも通り用意されていました。

席は大体誰がここに座る、と決まっていたので、いつも通り私は席に着きます。

すると誰かが隣のテーブル席に座って食事をしていたのです。

その席は私の同級生がいつも座っている席でした。

見たことのない女の人、女の子と言った方がいいのか、当時の私と同じぐらい？

色が白く、ボブヘア、水色のセーターを着ていました。

その下宿にはたまに別の学校の人が短期で入所する事もあったので、その人だと思い黙々とうつむき気味に食事をする彼女に

「こんばんわ」と声を掛けました。

すると彼女はビクッ！とオーバーすぎるぐらいの反応をした後、こちらをチラリと見上げ

「…こんばんわ」と消え入りそうな声で返してくれました。

緊張しているのかあまり人と話したくないのか、そうだったら迷惑だもんね、と思い、私もそのまま食事を始めました。

先に来ていた彼女ですが、一口が小さいのかゆっくりなのか、食べる速度が非常に遅く

私が先に食べ終わってしまいました。

私はさっさと食器を片付け、「お先に失礼します」と声をかけ

「あ…」と軽く会釈を返した彼女を横目に部屋に戻りました。

翌日、寮母のおばさんや他の入居者に、新しい人が入ったんだね、と昨夜の子の事を話してみました。

するとおばさんは

そんな子は知らない。新しい子は入っていないし、予定もない。

大体昨夜は私のテーブル席の分しか夕飯は必要なかったので隣のテーブルは荷物置き場にしていた。

と言うのです。

友人達も外部の人間は入れていないとの事。

でも挨拶もしたし食事もしていたし、確かにいたんだと主張しましたが、全員に夢でも見ていたんだろうと言われました。

今でも謎のままです。

あの子はいったい誰だったのでしょうか。