駅のホームにいた少年
投稿者:林 (4)
「どうぞ」
「あっ! ごめんなさい。ありがとうございます」
あまりそちらに顔を向けないようにして、しおりを受け取ろうとしました。
その男子大学生はしおりを持っている手に木製ビーズのブレスレットをしていたのですが、それがピキピキと軋むような音を立てていました。
思わず驚いて、しおりを受け取る手が止まりました。
「階段の反対側に行ってください」
大学生が小声で言いました。
「もうこっち側に来ない方がいいです。早く」
「どうもありがとう」
しおりを受け取り、私は踵を返し足早に階段の逆側へと向かいました。
「くそっ・・・・」
忌々しく吐き捨てるように呟くあの少年の声が聞こえました。
それはまるで私の耳元で話しているかのようにはっきりと。
私は聞こえないフリをして、飲み会帰りらしき人達の集団に紛れました。
ホームを少し移動しただけですが、例の少年は追いかけてきません。
あの場所から動くことができないのだと思います。
それからやってきた電車に乗り込みました。
電車の進行方向に先ほどいたホームがあるので、見ないように背を向けて。
普段通りに電車は走り出し、私はほっとしました。
おそらくあの大学生には少年が見えていたのでしょう。
とっさに助けてくれた彼に本当に感謝しています。
もしもやり過ごすことができなかったらどうなっていたのか。
あまり考えたくはありません。
その日以来、私はあのホームは使わないようにしました。
その後は会社を辞めて引っ越しもしてしまったので、駅にも行っていません。
まだあそこにあの少年がいるかどうかわかりませんし、調べる勇気もありません。
おそらくもう二度とあの駅は使わないと思います。
こう言う日常と連続の話はいいね。
大学生イケメン!