駅のホームにいた少年
投稿者:林 (4)
私が東京の会社で働いていたときの話です。
肌寒さを感じる秋だったと記憶しています。仕事が立て込み、帰りが遅くなった日です。
22時過ぎに駅のホームで電車を待っているときでした。
「すみません」
その声に振り向くと、そこには制服を着た中学生らしき男の子が立っていました。
「今何時ですか?」
「10時5分だよ」
「ありがとうございます」
それだけ言うと彼はホームの端へ向かって歩いていきました。
ずいぶんと遅い時間に帰るんだなぁと思いつつ、塾の帰りなのかなと考えました。
そこでふと思いました。
確かに私たちのいる場所からは時計は見えません。
しかし、電光掲示板はすぐ近くにあり、そこには次の電車の時刻が書かれています。
次の電車は22時8分と表示されているので、今は大体22時すぎだということはわかるはずです。
それなのに彼はわざわざ時間を尋ねてきました。
几帳面な性格なのか、迎えの時間が決まっていて正確な時間が気になるのかなと思い、その時はあまり深く考えませんでした。
それから2日後のことです。
同じくらいの時刻にホームへ向かう階段を下りていると、先日の少年が見えました。
彼は女性に何か話しかけているようでした。
しかし、話しかけられた女性はぼんやりと前を向いたまま、電車を待っているようです。
少年は続けて話しかけていますが、女性は立ったままです。
あからさまに無視をしている形ですが、まるで彼の声が聞こえていないかのように見えました。
そこで私は自分の過ちに気が付きました。
少年に話しかけられても反応してはいけなかったのです。
彼はもう人に気づかれない存在になっている、つまりこの世の者ではないのです。
私は階段を下りてすぐそばにかたまっていたサラリーマンの集団に紛れました。
あの少年は私を探しているのです。
その証拠に先ほど話しかけていた女性は私と同じ明るい茶髪のショートヘアで、オフィスカジュアルな服装をしていました。
絶対に見つかってはいけないと思い、背が高くガッチリとした体形のサラリーマンの後ろに隠れるように並びました。
それからまもなく電車が到着し、私は悪いと思いつつもそのサラリーマンの集団に割って入るようにして電車に乗りました。
幸い見つからなかったようで、電車のドアはスムーズに閉まり、そのまま発車しました。
この時間に乗るときは気を付けようと思いましたが、数日も経つと私はすっかり忘れてしまいました。
こう言う日常と連続の話はいいね。
大学生イケメン!