駅のホームにいた少年
投稿者:林 (4)
それから1週間ほど後のことです。
その日は仕事の締め切りがあり、夜中の12時を過ぎた頃にようやく帰れました。
終電までは30分ほど余裕がありましたが、金曜日ということもあってホームにはたくさん人がいました。
座れないだろうなぁと思いながら、電車が来るまで10分ほど時間があったのでスケジュールの確認をしようと手帳を取り出したときでした。
「すみません」
例の少年の声です。
私は「しまった」と思いましたがすでに手遅れです。
聞こえないふりをして手帳を開きました。
「すみません」
視線の端で彼が見えました。
制服のシャツとズボンが赤黒くなっています。泥汚れなどではありません。
血液が酸化したあの独特の色です。
そんな血まみれの恰好をした男の子がいれば、周りの人は必ず気が付くはず。
けれど、騒いだり彼に話しかける人はいません。こんなにたくさん人がいるのに。
それはつまり、彼は他の人には見えていないのです。
絶対に反応してはいけないと強く思いました。
それからどうやってこの場から切り抜けるか必死に考えました。
手帳のページをペラペラめくり、スケジュールを確認するそぶりも忘れません。
表情に出してはいけないと、奥歯を強く噛みしめました。
すると、ドンと右肩の後ろからぶつかられ、手帳に挟んでいたしおりが落ちました。
「わっ! すみません、大丈夫ですか?」
大学生らしき集団がすぐ近くにいて、その中の一人の男性がぶつかってしまったようでした。
「……はい。大丈夫です」
「なにか落ちましたよ」
彼が指さす方向にはしおりが。しかし、そちらには例の少年がいるのです。
ぶつかってきた男子大学生より私の方がしおりに近いので、私が拾うのが自然です。
けれど、しおりを拾おうとすれば彼の方を向かなければならないので拾えません。
とはいえ、しおりを拾わなければ私が少年に気づいていることもバレてしまいます。
「あ、はい……」
どうしようかと固まっていると、男子大学生がスッと動き、しおりを拾ってくれました。
そして、私と少年の間に壁になるように立っていました。
こう言う日常と連続の話はいいね。
大学生イケメン!