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妖怪・風習・伝奇

すだれさんによる妖怪・風習・伝奇にまつわる怖い話の投稿です

押し入れの怪音
長編 2022/08/01 20:51 4,840view
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獣?と素っ頓狂な声を聞き、再度唸り声が漏れたが「君の親戚を貶める意図は無いんだが」と念押しして続けた。

「昔はよくある話だったんだ。一族の中で…その、素行に問題があるというか、健常者の枠から外れてしまう者を、獣の悪霊が憑いているとして…憑き物を落とす手段と称して、屋敷の中の牢に軟禁して折檻してしまう。…閉鎖された地方ではそんな風習があったんだよ」

君が言ったんだ。酒宴の場の誰も、子ども1人減ったことなど気付かないと。

「…いつも、悲鳴みたいな奇声あげながら殴ってくる子が本家筋にいたんだ。でも、そうだ、あの日は…」

遠縁のお婆さんの言葉が脳裏に木霊する。

(開けてはいけない、出してはいけない、逃がしてはいけない)

「ただの憶測だ。どの説も裏付ける証拠はない。ただ、押し入れの中に何がいたとしても、釘を打たれた戸の裏のそれは恐らくだが意図して閉じ込められた存在だ。ともすれば、」

(開けて、出して、助けて)

その鈴は呼び声で、引き掻く音は訴える声だったかもしれない。

「…まあ、ロクでもない親戚共だとは思ってたよ」

お前がそんな顔するな、聞きたがったのは俺だぞ!と空笑いする友人が茶の入ったグラスを傾ける。酒宴で暴れる大人達の姿がトラウマだという彼自身は一滴も酒を飲まず、そんな彼の前では此方も飲まない。

「…本家はあの後廃れたんだ。屋敷ももうボロボロだ」
「ああ」
「押し入れには何もいない。中のヤツは出られた…ってこと、だよな」
「…そう思っていい」

釘は抜けたよと言うと同時に、友人の指先がピクリと動いた。押し入れの取っ手の感触を思い出すようだった。

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