人魚に出会った日
投稿者:邪神 白猫 (7)
「会ってみたいよな~、人魚! おやっさんが言うには、息も止まる程の絶世の美女なんだってさ!」
「へぇ~! 一度見てみたいな!」
「だよなっ!」
そんな会話を交わしながらも、海の家の店主であるおやっさんの顔を思い浮かべる。
(でも、あの人の言うことは適当だからな……)
そんなことを考えながらも、この地に伝わる人魚伝説も絶世の美女だったことを思い出すと、まんざら嘘でもないのかと思い直す。
けれど、その美貌を武器にして沢山の男を海へと引きずり込んだ話しだったことを思うと、会ってみたい反面恐ろしくもある。
(……ま、人魚なんて実在しないけどな)
頭では架空の生き物だと思いつつも、美女だと言われれば多少心惹かれるのも無理はない。直哉だって、本当に人魚がいるとは思っていないだろう。
ただ、”絶世の美女”とやらを拝んでみたいだけなのだ。
「──涼太! 来たぞっ!」
そんな直哉の声に反応して顔を上げると、こちらに向かって近付いてくる波が見える。それを逃す事なく捉えた俺は、そのまま腰を落としてライディングしてゆく。
(……さいっ、こーー!!)
あまりの気持ちよさに心の中で歓喜の雄叫びを上げると、人魚のことなどすっかりと忘れ去った俺はサーフィンに夢中になった。それは直哉も同じだったようで、次から次へと波に乗ってゆく俺達。
そのまま陽が傾くまでひたすらサーフィンに興じた俺は、沈んできた太陽を眺めると口を開いた。
「次でラストだな」
「……そうだな」
そんな俺の言葉に、残念そうな顔をしながら答える直哉。その気持ちは痛いほどわかるが、陽が沈んできたのだからこればかりは仕方がない。
視界の悪い夜に海に入るだなんて、危険すぎてとてもじゃないがサーフィンなどできないのだ。
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