白昼の尖塔と檻
投稿者:したださん (10)
昔のことすぎて、自分が何歳のころに経験したことなのかもわからないですが、おかしな体験だったので書かせてもらいます。
たぶん、私が幼稚園になるかならないかの頃の話です。
私は恐ろしく天気が良い日に、父と一緒に外に出かけにいきました。コンクリートが日差しの照り返しで、白く光っていたことをよく覚えています。
父と手を繋いで訪れたのは、古いアスファルトの上に、空っぽの檻がたくさん並べられた奇妙な場所でした。幼かった私にとって、檻がたくさんある場所=動物園だったので、父に「檻の中にいた動物たちはどこに行ったのか」と聞きました。すると父は「どこかに行ってしまった」と答えました。
そしてそのまま檻に囲まれた道を歩いて、最後に辿り着いたのが、おそらくコンクリートでできた尖塔でした。尖塔の上のほうに輪っかのようなデザインが施されていました。この尖塔がなんなのか私には良くわからず、父に聞こうと父を見上げた時、私は今までずっと一緒に歩いてきた人が父ではないことに気が付きました。ただ、どことなく父には似ていましたし、全く知らない人という感覚もなければ怖いとも思いませんでした。
それからどうやって私が家に帰ったのか覚えていませんし、それからしばらくの間、この奇妙な体験のことは忘れていました。
ただ、高校くらいの時に一度思い出し、父にこういうことがあったと話をしたことがありましたが、父にはそんな記憶はなく、私が訪れたような場所のことも知らないとのことでした。
それから数年経ち、車の免許をとったこともあって地元周辺を車で見て回った時に、あの尖塔を見つけたんです。
それは戦没者の慰霊塔でした。
私は改めてこのことを父に話すと、父は思い当たることがあったのか亡くなった祖父の部屋から古いアルバムを持ってきて、一枚の写真を見せてくれました。その写真には1人の男性が写っており、どことなく父に似ていたその人はあの記憶の中で私と一緒に慰霊塔を見た人物で間違いありませんでした。
父が言うには、この人は父の大叔父で軍人だったそうです。そして太平洋戦争で亡くなったとのことでした。戦没者の慰霊塔に私を連れて行ったのは、自分がここにいることを伝えるためでしょうか。
でも、あの空っぽの檻はなんだったのでしょうか。一時的に捕虜にでもなっていたのでしょうか。それとも何か訴えたいことがあったのか…。
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