エレベーターの鏡
投稿者:キミ・ナンヤネン (88)
あるマンションに最近引っ越した、ホラー映画好きの友人(以降「D」とする)の部屋に遊びに行った時の話だ。
その日は3連休の1日目ということもあり、雰囲気を盛り上げるため、夜の12時に訪問してホラー映画を二人で見るという計画だった。
Dによると、前の住民が入居してから数か月で出てしまった直後で、運よく安く借りる事ができたらしい。
数年前に建てられたというそのマンションは、訪問者はエントランスのボタンで部屋番号を入力するシステムだ。
ボタンで501と入力すると、マイク越しにDが対応してくれた。
エントランスの脇にあるエレベーターはちょうど1階で止まっていて、すぐに乗ることができた。
俺はエレベーターに乗り込み、体をドア側に向けようとすると、ドアが閉まる寸前、背中の方から誰かが入ってきた。
その気配からすると小学校低学年くらいの子供だろうか、俺の視界に入るかどうかという背丈だ。
こんな時間に子供が一人で?とは思ったが、明日は休みだし、コンビニも近いからお使いにでも行った帰りなのだろう。
エレベーターのドアが閉まると、俺はドアの正面に立って、ドアのガラス窓の外を眺めていた。
やがてエレベーターは5階へと動き出した。
そのドアは一面ステンレス製なのだろうか、真新しい鏡のように綺麗に磨かれていた。
ドアには、エレベーターの奥にある鏡が映っている。
エレベーターの奥の鏡というのは、車いすの方が乗り込んだあと、バックで降りる時に左右を確認するために必要だと聞いたことがある。
ドアと奥の鏡は、さながら合わせ鏡のような状態になっていた。
当然、ドアにはさっきの子供の姿も映っている。
子供は俺の後ろにいるはずなのだが、何か様子がおかしかった。
よく見ると、子供は奥の鏡に映ってはいるが、俺の後ろにいない。
子供の姿は、鏡の中だけに見えるのだ。
「ど、どうなってるんだ…!?」
俺はそれ以外の言葉を思いつかなかった。
子供は男の子のようだが、顔を伏せていてその表情を伺う事はできない。
エレベーターは思ったより遅い速度で動いている。
鏡の中で、子供はゆっくりと顔を上げようとしていた。
本能的に、俺はその顔を見てはいけないと直感した。
「早く…、早く上がってくれ…!」
エレベーターは上昇しているものの、まだ3階を超えた所だった。
俺はできるだけ鏡を見ないようにして、階数の表示だけを見るように努めた。
子供と鏡越しに目が合ったら、一体何が起きるかわからない。
しかし、そう思えば思う程、鏡の子供が気になって仕方がない。
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