行きつけのバー

ただ、この頃から体調が悪くなっていったのです

頭痛がしょっちゅうあって、ちょっとしたことで息切れするようになり、会社に向かう途中で座り込んでしまうこともありました

これまで健康だけがとりえだったのに

ある日の朝
歯を磨いたら歯ブラシが真っ赤になっていて、鏡を見てみたら歯茎から血が出ていて、口の中が真っ赤でした

異変はそれだけじゃありません
身体中にぶつぶつができて、触るととても痛いのです

なんだこれ？
飲みすぎか？

いや、そんなに飲んではいないはずです
そもそも飲みすぎで、こんなぶつぶつができるものでしょうか？

なんにせよ体調がよくないのは確かでした

ちょっとバー通いは控えるか
とは思ったものも、仕事が終わるとついふらふらとあの店に行ってしまうのです

それだけあの店は私にとって大切な場所になっていました

ある日、気が付くと私は外の電柱に寄りかかって眠っていました

いかん。飲みすぎてこんなとこで眠ってしまっていたか

身体を起こすと身体中が痛い
見るとあちこちキズだらけでした

右手には包丁が握られていて、真っ赤でした

なんだこれ？　何が起きているんだ？

私は怖くなりました
けど、その時、病院や警察に行こうという気持ちにはならなかったのです

理由はただ一つ

そんなことをすれば、あの店に行けなくなるかもしれないから

私はとりあえず家に帰ることにしました

キズの手当をして、それからバーに行こう

家の前まで行くと誰かが立っていました
会社の同僚でした
彼は私を見るなりこっちに駆け寄ってきました

「おい！　お前どうしたんだよ？　ずっと連絡しないでどういうつもりだ？」

私は何がなんだかわかりませんでした

話を聞いてみると、私はどうやら一週間も無断欠勤をして、連絡してもまったく返事がなく、行方不明の状態だったらしいのです

私は警察に連絡をして、病院にも行くことになりました

しかし、わかったことはほとんどありませんでした

ただ私の身体のキズは、キズの場所やキズの付き方から考えて、ほぼ間違いなく自分でつけたものらしいのです

私はそれ以来、あの店に行くことはなくなりました