深夜の訪問客
投稿者:とくのしん (65)
バイト先の店長から聞いた話
コンビニの深夜バイトをしていたとき、店長と二人でシフトに入ることになり、そのときに聞いた話である。
田舎のコンビニとなると深夜に客が来ることはほとんどなく、この時間帯は本当に長く感じるもの。無駄に陳列棚を整理したり掃除をしたり、そんなことをしながら配送を待つというのが深夜の時間帯のやることである。
その日も例外なく暇で、店長が「暇だから休んできていいよ」と休憩時間前にバックヤードに行かせてくれた。事務所で休んでいると客が入ってきたことを知らせるチャイムが鳴った。ふと監視カメラに目を向けると誰も入ってきていないのに、自動ドアが開いている。虫などで誤作動を起こすこともあり気にもしていなかった。
休憩が開けてレジに戻ると店長が「さっきの気づいた?」と問いかけてきた。
「誰もいないのに自動ドアが開いたヤツですか?」と返すと
「〇〇君、怖い話平気?」
店長が話したそうに言うので俺は頷いた。
定年を迎えて老後を考えたとき、てっとり早く開業できるコンビニがいいと、会社が早期退職を募ったのをきっかけに上乗せされた退職金を元手に始めることにした。説明会では良いことばかりを言うため、それを鵜呑みにしたばかりにサラリーマン時代より大変だと店長は苦笑いしていた。
今の店舗は2店舗目で、土地を持たない店長は本部が用意した場所で開業した。駅からも近く、田舎だがそれなりに交通量もあり、また敷地もまぁまぁ広かったこともあって繁盛したそうだ。
開業当時、バイトも集まり店長はそれほどお店に出ることなくてもお店は回っていたそうだ。変な話「黙っていても金が入ってくる」そんな状態だったとか。
それから3か月くらいになったとき、深夜バイト1人が辞めた。続けて深夜バイトが1人また1人と辞めだした。皆一様に理由を訊いてもあやふやではっきりしない。とにかく穴を埋めるため店長が深夜に出ることになった。
それなりに儲かっていたこともあり周辺のコンビニよりもバイト代を高くしている、それなのになんで辞めるんだろう?店長は不思議に思っていた。
ある日、店長が深夜品出しをしているとチャイムが鳴ったので「いらっしゃいませ」と声をかけた。しかし自動ドアが開いてだけで客はいない。虫か何かか、と品出しに戻った。すると数分後に再度同じことが起こったらしい。時間は深夜2時、俗にいう丑三つ時に少し気味が悪くなったという。
そんなことがしばしば続いたある日、店長はいつものように深夜の品出しを終えて、バックヤードで一息ついていたときチャイムが鳴った。事務所にある監視カメラのモニターに目を向けると、若い男性が入ってきた。慌てて店内に戻るが誰もいない。見間違いかと思って事務所に戻り、もう一度モニターに視線を向けたときその目を疑った。
誰もいないはずの店内を映す監視カメラの映像に男がはっきりと映っていた。その男は何をするわけでもなく、ただただ店内をウロウロしていたという。恐ろしくなった店長はモニターを眺めるしかできなかった。しばらくすると店内をうろついていた男は何事なく店の外へ出て行った。しかし帰りは自動ドアは開かず、男はそのまま素通りしていったそうだ。
次の日、深夜バイトのAにそれについて聞いた。するとAは「自分は見たことないが、辞めた人は同じようなことを言っていた。それが何度も続いたので怖かったみたい」と答えた。
担当SVに連絡をして事情を話す。ここは事故物件じゃないのか?との質問に、調査は滞りなくやっているが、あくまでも収益性を考えて出店場所を選んでいる。個々に何があったかまでは知らない、というようなことを言ってきた。挙句にお祓いとか勝手にしないでください。集客に影響がありますから。と突き放すようなことまで言われたそうな。
仕方なく店長はコソっと店の片隅に盛り塩をすることにした。その日、男が現れた時間に若いカップルが入ってきた。店内の雑誌コーナーでキャッキャやっていると、誰も入ってこないのに自動ドアが開いた。それを見ていたカップルは「幽霊だ」などと騒いでいた。すると雑誌コーナー前の雑貨が触れてもいないのにいくつか棚から落ちた。騒いでいたカップルは逃げるように店の外に出た。一部始終をレジから見ていた店長は、急ぎ事務所に戻って監視カメラの映像を見直した。
カップルが入ってきたあと、自動ドアが開く。やはりそこにはいないはずの男が入ってきた。男は入ってすぐの雑誌コーナー前を通り、カップルの横で立ち止まる。雑貨を見つめるように立ち止まると、商品がいくつか落下した。
その後、いつものように店内をうろついていた男が外に出ていく、と思ったときだった。いきなり映像がザーと砂嵐に切り替わった。すると古い屋敷のようなものが映ったそうだ。次に庭、井戸と次々に映像に現れた。ほんの数秒だったが、ありえない映像が映り込んだ。朝になり盛り塩を見るとべた~と溶けていた。
それからも怪奇現象は続いた。おかげで深夜バイトは入ってはやめ、入ってはやめの繰り返しただったそうで、店長はすっかり夜行性になったと笑いながら言っていた。
数年やってその地に根付いたとき近所の人から聞いた話によれば、元々大きなお屋敷があったそうだ。一人息子がいたそうだが、事故で亡くなったらしい。近所でも評判の家で、特に何かあったわけではないとのこと。息子を亡くした夫婦は、家を処分してどこか別の土地に移ったそうだ。
「帰る場所を無くして探していたのかもね」
その話を聞いて、お店に花を供えるようにしたところ、その男は現れなくなったそうだ。それから深夜バイトのシフトは2人制にしているんだと店長は語ってくれた。
なるほどお花を。