ドアを叩く正体
投稿者:七色 (4)
そして、とにかく目を引くのがパツパツに張った何かアニメキャラがプリントされたTシャツ姿だ。
さしずめボンレスハムの如く段々の横線を刻んだ着こなしは、どう見てもシャツが可哀想に思える。
俺達がミラー越しに観察していると、そいつは徐に人差し指を咥えると艶めかしく舐め始める。
「うえ…」
「早く出ようぜ。あれマジでヤバイ奴だって」
俺は表情を苦悶に歪ませた友達に催促すると、友達もエンジンをかける。
気分は害されたがどうせ今日が最後だ。
犯人の容姿が見れただけでも胸のつっかえが取れたようなもの。
万が一、幽霊だとしたらそれこそ引っ越す程度で逃げ切れる訳もないと、俺は自分自身に言い聞かせるように心の中で自答を繰り返した。
そんな折、友達が車を発進させると、「おい」と声を発する。
黙って友達を見やると目でルームミラーを指すので、俺はミラーに視線を送り車両の後方を確認した。
アイツが追いかけてきている。
それも不格好ながら両脇を閉め内股で踏み出す、所謂女の子走りをしていた。
「追っかけじゃん」
友達がアイドルを追いかけるファンに例えるもんだからちょっと笑いそうになったが、だるんだるんに弾む顔面の弛みを見ればお世辞にも美人とは言えず、寧ろ夜道にあんなのが走って向かってきたら妖怪か何かとさえ見間違える自信がある。
しかも地味に足が速い。
この辺りは路地という事もあり制限速度が低めだ。
徐行で逃げる俺達。
数十メートル引き離されても右左折や信号で一時停止する度に距離を詰めて来るアイツ。
内心、追い付かれて車から引き摺り降ろされるんじゃと心拍数がエラい事になっていたが、どうにか国道に出た事でアイツとの距離が開き杞憂に終わった。
「これ映画化したら見に行くわ」
こんな時でも冗談を言える友達はやはり頼もしい。
俺は車を運転する男の姿がこんなにカッコいいものだと今まで知らなかった。
妙に輝いて見える友達の横顔にうっとりしながら、俺はアイツから逃げ切る事ができたのだ。
こうして俺の引っ越し騒動は終わった……と思ったのだが、少しだけ後日談がある。
明朝だったか、大家から電話が入って話したんだが、何でも玄関ドアが破壊されていたそうだ。
何か鉄製の棒状のもので何度も叩きつけたのか鋼板のドアは見るも無残に変形し蝶番が半壊した状態で部屋の入口にもたれ掛かっており、その壊れたドアには赤いスプレーで「裏切り者」「好きって言ったのに」「絶対見つけて殺す」など物騒な事が書かれていた。
そして大家も口を濁しかけたのが、大量の毛髪と僅かな肉と血痕の付着した爪が数枚ほどセロハンテープで貼り付けられていたという。
時間的に俺が荷物の運び出しを完了し、友達の車でアイツを撒いた後だろうか。
俺は大家に深々と謝罪をして事の経緯を話すと、大家は少しだけ同情してくれたのか修繕費を安くしてくれた。
まあ、修繕費は元々俺が迷惑をかけたと思ったから払うと言ったんだが、安くしてくれたのは助かる。
こわ
最後はアッー!ということでしょうか
お幸せに
同居させてもらってた時から、うっとり瞬間は何回かあったはず