意気投合したおじさん
投稿者:ぴ (414)
あれは十数年前の話です。ゴールデンウィークの終盤になって、私は帰省していた実家から駅まで送ってもらいました。
両親の元で久しぶりにいろいろと話して、とても楽しいGWになりました。
少し寂しい気持ちも混ざりつつ、一人暮らしの家に帰るために電車に乗りました。私はそこで旅の友人に出会ったのです。
GWの終盤といえば人でごった返すのが常です。
私の実家も田舎ではありましたが、それでもこの時期となると電車内は人でごった返しており、なかなか席に座れそうになくてがっかりました。
数日分の荷物を持っていたため、荷物も重かったし、なるべく席に座りたかったです。
だけど、なかなか座れるタイミングがなく、ずっと車両と車両の間で立っていました。
もうそろそろ立っているのが限界だと思ったときに、近くの席で人が降りたのです。
今がチャンスと私は俊敏にその席に座りました。本当に座れたことでほっとして、もう帰りはずっと眠っていこうと思いました。しかし、そうはいかなかったです。
私が座った席の隣には、60代くらいに見えるおじさんが乗っていました。
背は低かったけど、なんだかがっしりている印象のおじさんでした。
基本的に私はどっちかというと人見知りタイプで誰とでも話すタイプではなかったのですけど、隣のおじさんがあまりに親しみやすい感じだったので、次第にしゃべって仲良くなりました。
本当に明るくて親切なおじさんで、私が電車が切り離されたり、乗り換えしないといけないかよく分からないというと、大丈夫といろいろと教えてくれました。
おじさんの目的地は大阪と言っていました。
私と同じ岡山で一度降りる予定で、それまで一緒だし車両が切り離されることはないと教えてもらいました。
初めは当たり障りのない世間話をしていたのですが、次第に子供の話になっておじさんの奥さんと子供を早くに亡くした話や、自衛官としてバリバリ仕事をしていた話など、いろいろと聞きました。
すごく苦労していたようで、私は胸が何度もギュッと苦しくなりました。
さらにおじさんは私にとんでもないことを言いました。
本当に目的地の岡山につく間際に、自分が癌になって病院に向かっていることを教えてもらったのです。
私は驚きました。とても明るくて元気そうに見えるおじさんだったので、まさか病を患っているなんて想像できなかったです。
そんな話をしていたら、岡山にはあっという間に着きました。
私はなんだか数時間だけ一緒にいただけとは思えないくらい、おじさんとすっかり打ち解けました。
見ず知らずのさらに名前も知らないおじさんとは思えないくらいに、とても親近感が湧いていました。
だから最後は「癌が治るといいね」なんて話したのです。
心の奥底からおじさんの癌が治ることを願いました。おじさんもすごく嬉しそうにしてくれて、最後はハイタッチで私を駅の前でさよならしました。
とても印象深く、年齢はぜんぜん違うけど、私は旅の友のように思えました。
そんなことがあった話を私は友達なんかによく話していたのです。
とてもいいおじさんだったけど、連絡先も名前も聞かなかったことを少しだけ寂しく感じました。
それから半年以上経った頃だったと思います。
私は岡山駅で買い物中に見たことがある人を発見して目を剝きました。
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