意気投合したおじさん
投稿者:ぴ (414)
あれは電車で隣になったあのときのおじさんでした。私はその思わぬ再会に驚いたし、とても嬉しくなって思わず声をかけようとしたのです。
しかし、途中で声をかけられませんでした。なぜならおじさんは、一回りも二回りも年下に見える知らない若い女性とまるで感動の再会というように、駅の前で抱き合っていたからです。
相手はさらさらロングの黒髪に、鼻筋の通ったとてもきれいな人でした。
私はそれを見て驚いたし、正直ちょっとだけ引きしました。まさか私みたいな駅で知り合った若い女性にあのような再会をしたのかと勘違いしたからです。
でもよく見てみると女性の隣には小さい子供がいるのです。
しかもじっと観察してみると少しおじさんに似たくりくりした目の男の子でした。
おじさんは女性を抱きしめた後はその子を抱き上げて、そして心底幸せそうな顔で笑っていました。
私はそれを見て、まるで家族みたいとすごく感動したのです。感動しすぎて、声をかけられませんでした。
あまりにその姿がまるで、しばらく会えなかった妻子に出会った瞬間みたいで、とても輝いて見えました。
相手は誰だったか分からないまま、私は再会したあのおじさんに声をかけられないまま3人が駅に入っていくところを見送りました。
再会して話しかけられなかったことに、少し心残りはありましたが、あの中に邪魔しに行く勇気はなかったです。
どんな間柄なのだろうと想像しながら私は帰路につきました。けれどその帰り道に私ははっと気づいてしまったのです。
おじさんは確か若いころに奥さんと息子さんを亡くしたと聞きました。
だから自分には誰も身寄りはいなくて、自分が死んでも寂しがる人はいないと言っていました。
「私が寂しがるよ」と言ったら少しだけ嬉しそうに笑っていました。
そして奥さんはとても美人な人で、息子は自分に似ていたとも話していたと思うのです。
私はそれを思い出して、ふと気づいたのです。もしかしておじさんは逝ってしまったんじゃないかと、私は時間差で気づいてしまいました。
確かあの日は癌の検査を受けてくるとおじさんは言っていました。
不安など全くなさそうな明るい調子で話していましたが、なんだか今思い出すと不安を誤魔化すための空元気だったんじゃないかと思ってしまうのです。
もしあれから亡くなったのであれば、あまりに早すぎる癌の進行だと思います。
連絡先を知らないので、確認する術はありません。しかし、先ほど見たおじさんの顔は間違いようのないくらい本人そっくりでした。
確か私は電車で仲良くなったおじさんがあまりに奥さんを自慢してくるので、「本当にそんな美人だったの?見てみたい」と漏らしてしまったような気がします。
もしかしたらおじさんは最後に出会った友人である私に、亡くなった自分の大切な妻子を見せに来てくれたのかもしれません。
今おじさんが生きているのか死んでいるのかは本当のところは分からないです。
癌が治って元気を取り戻してくれるのが一番ですが、あの幸せそうな笑顔を思い出したら、例え亡くなってしまっていたとしてもおじさんは幸せな気がします。
旅の友人はおそらく旅立ったと思います。少し寂しくはありますが、私はあの幸せそうな家族を喜んで見送りたいと思いました。
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