半分婆
投稿者:ロンチーノ・ぺぺ (5)
「トイレに半分に裂けたおばあさんがいるから見てみてよ。面白いよ」
と、妹に言われて私はイヤイヤ見に行くことにした。
何故か妹はめちゃくちゃニヤニヤしている。そもそも半分に裂けたおばあさんて一体何なんだ? そんなもの見たくもない。見たくもないが、妹にどうしてもと半ば背を押されてトイレの前まで進んだ。
うちのトイレは(というか家そのものが)古くて、位置的にも日当たりの悪い場所にあるから昼間でも薄気味悪い。電気つけてよと言ったが妹は無視した。
「早く開けてみなよ」
どうしてもその婆さんを私に見せたいらしく、開けろ開けろとせっつくのである。ウゼェ~と後ろを向くとやっぱりニヤニヤしているので、こいつ性格悪いなと思ったが開けないといつまでも付きまとわれそうなので舌打ちしつつ渋々開けた。
ドアを開けた先には真っ暗な空間があるだけでなにもない。婆さんなんていないじゃないかテメー、と、後ろをもう一度振り向くと妹の姿もない。
何でだ? まあいいか……
ドアを閉めようとして再びトイレの方へ首を向け直すと、ブラン! という感じに天井から婆さんが逆さまに現れた。
うわーーーこれかー!と思った。
なるほど、婆さんは左右に裂けていた。断面が赤黒く濡れ、白髪をもつれさせた顔面は苦悶に満ちていた。その婆さんが至近距離で私を睨んでいるのである。妹は「面白いよ」と言っていたが、やっぱり何も面白くない! むしろ怖いし気持ち悪い!
いつまでも婆さんと見つめ合っていても精神衛生上良くなさそうなので私は持てる力の限りでドアを閉めた。逃げようと走り出した後ろでドアが弾き飛び、婆さんが逆さまのまま天井をスーッと移動しながら追ってくる。それは反則だと思った。逆さまの婆さん。逃げる私。
あともう少しで婆さんに捕まる! といったときに目が覚めた。どうやら夢だったらしい。
正直、めちゃくちゃ怖い夢だったが負けず嫌いなので「大したことなかったなあ」などとあからさまな負け惜しみを布団の中で言っていると、あんな夢を見たせいか、はたまた寝る前にがぶ飲みしたお茶が効いたのかトイレに行きたくなった…嫌だ、行きたくない、だって怖いからなどと数秒前とは矛盾した思いを抱きつつも、成人越えておねしょは洒落にならない。まあしょせん夢だし…と、自分を励まして(誤魔化して)布団から出て問題のトイレに向かった。
「ババア出てこいやーーー!」
半ばヤケになり意味不明なことを叫びながらドアを開ける。
天井から夢のババアが垂れ下がってきた。
怖いけど、「ババア出てこいや」は笑うわ。
逆さ鏡やろなぁ