小人2題
投稿者:ロンチーノ・ぺぺ (5)
またまた前のバイト先の人から聞いた話。この人は四つん這いのときの先輩じゃなくて別の先輩。この人も中々に変わった人だった。
夕飯の時に味噌汁を飲んでいると、何処かから小人が走ってきて先輩の持つ汁椀の中へ飛び込んだ。というよりも味噌汁を飛び越えようとして、目測を誤ったらしく僅かに飛距離が足りずにボチャン!っと落ちた。「あ、ヤバイ」と思ったが、思ったときには時すでに遅しで小人はそのまま味噌汁と共に先輩の口の中へ流し込まれていったらしい。因みに豆腐と油揚げとネギの味噌汁だったとか。
小人は可哀想だが不慮の事故だ。それにどうしようもない。
多少の罪悪感はあったが、そのまま風呂に入り歯を磨いてから布団に入ったという。
それから何時間して、夜中に急な腹痛に襲われて飛び起きる先輩。それも、腹痛といっても体調不良というより内側から刺されるような物理的な痛みだったと言っていた。
なんだなんだと飛び起きて布団の上に座ったままシャツをめくりあげると、ピョンと小さい影が飛び出してきた。「え?」と電灯の紐をひっぱり灯りをつけると、味噌汁の小人が恨めしげに先輩を眺めていたが暫くするとどこかに走っていった。
「アイツ、俺のヘソから飛び出して来たんだよ。それにしても逆恨みだよなあ。またどこかで味噌汁に落ちてなきゃいいけどね」
そう言って先輩は缶のコーヒーを一口飲んだ。
高校のときに同じクラスだったNちゃんの話。
「私、ちょっとの間だけ小人と暮らしてたことあるんだよね」
と言う。詳しく聞いてみると、その小人はいつのまにかNちゃんの部屋に住み着いていたらしい。
Nちゃんはあえて気がつかないふりをしていたが、彼女が机に向かい勉強してたりスマホを眺めてたりすると、そっと近くまで来ては興味深く覗き込んでいた。
「小人もお腹がすくだろうと思ってさ、ちょっとしたクッキーとかをお皿に置いておくとちゃんとなくなってるんだよね」
可愛かったなあとNちゃんは目を細めた。
しかし、そんな小人とのささやかで楽しい日々もある日突如として終わりを告げる。
「布団を干そうとして、まずベランダを開けたのね。そしたら小人が急に外に飛び出して……カラスが取ってっちゃった」
それは本当に一瞬のことで止める間もなかったらしい。カラスの足に掴まれて飛んでいく小人をNちゃんは呆然と見送った。小人がいなくなって暫く落ち込んだが、親や友人に理由を問われてもどう説明したものか分からずに苦笑いで濁した。
無事だと良いけどねえと、Nちゃんは溜め息を吐いた。
.
最後の小人は旅立つ為にわざとだよ!
カラスとタイミング合わせてたのかも。