ひょっこりさん
投稿者:with (43)
俺は事故現場を目撃したことで女から意識を外してしまった。
すかさず電柱へ視線を向けるが、既に女は消えていた。
この出来事をきっかけに俺は一つの仮説を導き出した。
あの女は俺の周辺で起きる事故を警告しにやってきているのでは?と。
それからというもの、俺は何かある度に女の探した。
例えば、自転車で通学中に女を発見して立ち止まれば、寸でのところを目の前をトラックが通過していったり。
他にも、友人と歩いている最中に女を見つけたので友人に教えようと袖を掴めば、頭上から鉢植えが落ちてきたりして、俺が友人を引き止めなければ鉢植えは友人に直撃していただろうと感謝された。
そんな小さな偶然が積み重なって、俺は強運の持ち主なんて友人にからかわれたが、怪我一つ負う事なく危険回避できているのはあの女のおかげだ。
いつしか俺はあの女の事を親しみを込めて「ひょっこりさん」と呼ぶようになった。
いつもひょっこりと現れて俺に危険を知らせてくれる大恩人である。
ただ、その青白い顔やギョロっとした目は怖いので、そこだけはどうにかしてもらいたいものだ。
この前、調理実習の授業中にあの女の顔を見た時はたまげたものだ。
なんせ戸棚を開けた瞬間目の前に現れるのだから驚いて飛び退いた。
で、後ろで包丁を持ったクラスメートに自分から突き刺さりに行きかけた時は焦ったが、何とか回避した直後、震度4くらいの地震が起きて教室の小物が少し揺れた。
その時、調理台に置いてあった包丁なんかが床へ落ち、俺の傍にも包丁が落下した。
恐らく、この地震の予兆としてひょっこりさんが警告に出てきたんだろうが、その顔に驚いて二次被害が起きるところだったと苦笑したものだ。
そして、高校三年のある日、俺は夏休み中に自動車免許を取得し、友人を含めた三人でドライブに出かけた。
夜中に近くの山道を走り、若気の至りか、そこそこスピードを出したりもした。
「やっぱ足があると楽だな」
「俺は足かよ」
なんて、友人たちと車内で騒いでいると魔のカーブが直線上に見えてくる。
大層な名称だが、何台もの自動車事故が起きる知る人ぞ知る事故頻発区域であり、幸い死者は今のところ出ていないものの免許合宿で知り合った人達も噂にするほど充分に気を引き締める場所である。
俺は流石に速度を落とすべきだと判断し、アクセルを緩める。
ほんの少し視線を足元へ下げた時、俺は凡そその場に存在しない物体を視線の端に捕らえ、思わず二度見してしまう。
「わっ」
俺の短い悲鳴に同乗する友人たちは一斉に顔を向けた。
「どした?」
正直、友人たちの声はあまり耳に入ってこなかった。
と言うのも、運転席の足元には、俺の膝を抱え込むようにしてひょっこりさんが見上げているのだ。
真っ暗な車内に常備灯のように浮かぶ青白い肌顔がアクセルを隠すように存在する。
普通に面白い
こわい
おもしろい
後から今までの考えが一気にひっくり返されるところが恐怖
なぜ最後冷静?