アリス
投稿者:LAMY (11)
いい感じに背筋が寒くなったところで愛ちゃんの話は終わり、次の話へ進み、その話も終わり……という具合で、怪談会は滞りなく進んでいった。
百物語のように明確な目標を持って怪談を語る集まりではないので、当然終わり時はメンバーが飽き出してきた頃ということになる。
だんだんネタも尽き、語られた話に対する反応もあいまいになってきたところで会はお開きになった。
――次の日から、愛ちゃんはサークルに来なくなった。
愛ちゃんは少々身の回りのことにルーズなところがあったので、大方課題の出し忘れやら何やらでてんてこ舞いになっているのだろうと皆思っていたが、大学から情報を求む旨の通知が出たところでその認識が誤りであると知ることになった。
彼女は怪談会の次の日、通学のために家を出たところから行方がわからなくなっているというのだ。
生憎周りの人間は彼女から何か聞いていたというようなことはなかったし、行き先の心当たりもなかった。
だが同じサークルの人間、それも見目麗しい女子が突如失踪したというセンセーショナルな事態は、彼らの口を下世話で不謹慎な噂話へと駆り立てた。
「愛ちゃんってさ、結構電波なとこあったじゃん。変な男に言い寄られて、その気になって駆け落ちでもしてんじゃないの」
「男絡みはありそうだよね。あの子顔は可愛かったし」
ああでもないこうでもないと各々の推理を話し合う者たちと、それを遠巻きに非難の目で見る者たち。
けれど噂話に花を咲かせる者たちを咎める者があるわけでもなく、失踪者の名誉は話の肴にされていく――そんな時だった。
「そんなんじゃない!!」
今まで部室の隅でじっと押し黙っていた一人の女子が、急に大声で叫んだのは。
その女子は、いなくなった愛ちゃんと仲が良かった。安否の知れない友人の名誉を愚弄するような噂話に我慢できなくなり声をあげたのだと誰もがそう思ったし、実際話をしていた連中も居心地悪そうに部室をぞろぞろ出て行った。
「……ごめん、俺たちが止めるべきだったよな。あんな不謹慎な話されてたら腹も立つよな」
はぁ、はぁと荒い息を吐いている彼女を宥めるように一人が声をかける。
「違う。そうじゃないの……」
「え……?」
「あの子……駆け落ちとか、そんなんじゃないの。絶対違う、絶対違う」
目をかっと見開いて、絶対違う、絶対違うと繰り返す様子はある種異様でさえあった。
言い知れぬ違和感と恐怖を感じながらも、しかし相手は友人が消えて傷付いているだろう女の子だ。
話を聞いてあげないようでは薄情だろうと思い、「どういうこと?」と誰かが話の続きを促した。
するとその女子は、おもむろに自分の携帯電話を差し出した――画面には、誰かからのメールが表示されている。
それを真っ先に覗き込んだ者が、あっと声をあげた。
そのメールの差出人欄に、愛ちゃんの名前があったからだ……しかし。
「なんだよこれ……本当に愛ちゃんが送って来たのか?」
わずか数文字の文面は文字化けしてしまっていて、何が書いているのか全く読み取れない。
しかしメールの受信時刻を見ると、怪談会の翌々日の午前中だ。
このメールが行方をくらました後の愛ちゃんから送られてきていることは明白だった。
読ませるねぇ〜
子供の頃似た経験してるよ。よくある夢との混同かと思ってる。
違う次元行って帰れないのは、まどマギの円さんみたいだなー
明治時代に出版された日本初の「不思議の国のアリス」の邦題は、「愛ちゃんの夢物語」
名前までムリヤリ訳しちゃったそうです。
面白かった
愛ちゃんの夢物語www
夢オチにされとるwww
めっちゃ読みやすくて話に引き込まれる感じがして面白いです!
読み終わってゾワッとしました!
面白かったです!
黄泉戸喫 (よもつへぐい)「あの世のものを食べると、この世に戻れなくなる」というもの。 例え生きたままあの世に行けても、黄泉のものを食べればそのまま黄泉の国の住人にされます。 こと、日本においては、古事記に登場する 伊邪那岐命(イザナギノミコト)と伊邪那美命(イザナミノミコト)の話が有名である。
何故か2ページ目までしか読んでなかった
今日、気が付いて最後まで読んだけど、本能で帰れなくなると警告していた2ページ目で終わらせる方がぞくぞくして完成度が高かった気がする
蛇囚人の話を思い出した
今は文字化けを直すサイトがありますよ。
面白いけど最後のメール警察に突き返されたってのだけ気になっちまった…
画像もいい味出してるw
めっちゃいい
向うに行った場合こちらの世界の時間がほぼ止まっているのに
翌々日にメールが届くの?
いいなぁこの淡々と流れで不思議で恐ろしい結末。
世にも奇妙な物語でやってほしい。
子供の頃は働いてた本能が無くなって現実の世界でも翌々日になっちゃうくらい時間が経っちゃったのかね。
それか呼び込まれて美味しいもの、とかじゃなくてゆっくり休めるベッドとかで思わず寝過ぎて出れなくなった。とか
なかなか怖い
↑文字化け直すサイトは全ての文字化けに対応できる訳ではないよ
その後、愛ちゃんがどうなったのか想像するとまた怖いね
愛ちゃんやっちまったなぁ!
きれいに纏まってていい怪談
そういう部屋で思い出の中の好きな人と幸せに閉じこもってたいな。
帰られへんって・・・・
ためはち
逆に裏の山で遊んでたら1.2時間くらいしか経ってないはずのに家に帰ったら4日くらい経ってたことあったなぁ
誘拐か遭難かみたいなちょっとした大騒ぎだった
電波は出られるんだな
不思議な空間はないけど小学校の頃は登下校で使えてた道が工事とかがあったわけじゃないのにいつの間にかなくなってたことはあったな。親に聞いたらそんな道元知らないし地図にも乗ってなかったんだよね 。
面白く拝見しました。
ところで、ご存知の上でかもしれませんが、向こうに行ってから翌々日にメールが届いたのではありませんね。
「彼女は怪談会の次の日、通学のために家を出たところから行方がわからなくなっているというのだ。」
「メールの受信時刻を見ると、怪談会の翌々日の午前中だ。」
大学生なら通学時間が遅い日もあります。
行方不明後にメール着信という前後関係を明らかにする設定の中では、時間差を縮めた流れにはなっていますね。