夏祭り

のハズだったのだが、Ｂ子が写っていなかった。
Ａの左隣には誰もいない。
そんなハズは、とＡは戸惑った。
たった一度だけだが、ちゃんと祖母に見せられたのだ。
なによりＡ自身が手を繋いだことをハッキリ覚えている。
何も知らない家族たちが、Aが写っているのだからと
この写真はいつどこで撮ったものだ、と聞いてきたが
Ａは「わからない・・」としか答えようが無かった。

家族達はその言葉を、昔のことだからわからないという意味に
解釈してくれたようで、その時その話はそれで終わった。
だが家族たちの反応で、どうやらＡが
「Ｍ村の親戚」だと思っていた人たちを祖父たちは
だれ一人として知っていないらしいことがＡには判った。
その後、時間をおいて祖父たちに祖母にはＭ村に親戚が
居たりしなかったかと聞いてみたが、知らないとのことだった。

祖母も亡くなってしまったので、

今ではあの村のあの夏祭りのことはAの記憶の中にしかない。
Ｍ村はいまも存在しているが、今さら行っても
親戚の家がわかる自信はない。
写真も多分、祖父が始末してしまっただろう。
思い違いとか見間違いだと言われればそれまで
のことになってしまった。

だが、Ａはあの時の夏祭りの喧騒と、
そっと握ってきたＢ子の手の柔らかさを
今でもハッキリと思い出せるそうだ。