夏祭り
投稿者:GENGO (32)
一年後、今度は父母兄と一緒に祖父母宅をAは訪れた。
すると祖母がAを一人だけ家の隅に連れて行って、
黙って写真を一枚見せてきた。
それは去年に取ったあの時の記念写真で、その写真には
AとB子が手を繋いでいるのがしっかり写っていた。
Aは自分の顔が赤くなっていくのがハッキリとわかった。
祖母は少し笑いながら
「この写真、また来年に見せたるわ」
と言った。
Aは「その写真ちょうだい」といいたかったが、
それを持っていたら父母兄に見つけられるかもしれないわけで、
それは祖母との約束をやぶることになるし、恥ずかしいし、
お願いするのはあきらめた。
そして翌年以降だが、祖母は写真を見せてくれはしなかった。
忘れてしまったのか、とAは残念に思ったが、Aのほうから
あの写真を見せてとは言いにくかった。
手を繋いでいるし。
結局、その写真をそれきり見せてもらうことはなかった。
Aが30歳になったころに祖母は亡くなった。
祖父母宅にて葬儀の準備をし、執り行っている間、
それとなく弔問の人を見渡してはいたが、
M村から来たらしい人達がついぞ見当たらなかった。
もちろんB子らしき人もいない。
何十年も前に一度会っただけだ。
判らなくてもしょうがない。
釈然とはしなかったが式は滞りなく終わった。
翌日、改めて祖母の遺品を整理していたところ、
祖母が所有していたアルバムが出てきた。
家族が祖母を偲びつつアルバムのページをめくり、
若いころの祖母や家や村並みの風景などを見ながら
思い出話をし始めた。
そして家族の1人が「あれ、これはどこで撮った写真だ?」
と声を上げた。
Aはある程度「出てくるだろうな」と思っていたが、
あのM村での記念写真だった。
10人ほどの人の中で祖母とAとB子が並んで写っている写真。
青春ですね