万引きを止めてくれた人
投稿者:ぴ (414)
相変わらず優しい笑顔でにっこり笑いかけてくれて、私は嬉しくてぶんぶんと手を振り返しました。
私はとっても安堵し、お店を後にしたのです。
その後、私は母に自分の素直な気持ちを話しました。
自分が寂しいことを伝えると、母が思いっきり抱きしめてくれて、何度も謝ってくれました。
私はそれに安心してちゃんと愛されていることを知りました。
私に厳しかったのは、母なりの愛なのです。
厳しい環境でも生きていけるように、私に厳しく言い過ぎたと謝ってくれました。
しばらくして、私はあのスーパーに行きました。
あのお店の人にお礼が言いたかったからです。
私の顔を覚えていた従業員の一人がやさしく迎えいれてくれて、なんて温かい人たちなんだろうとぐっときました。
ただ、私が会いたかったあの人だけいないんですよね。
だから聞いてみたんです。「万引きを止めてくれた人はいませんか?」と。
お店の人はすごく不思議そうな顔をしていました。
そのお店は小さくて、従業員はそんなに多くありませんでした。
その中に私がお店で万引きしたということを知っていた人はいないというのです。
誰も店主にそのことを知らせなかったそうです。
私はその人の特徴を詳しく話そうとして、不思議に思いました。
なぜならその人の顔が思い出せないからなのです。
優しげな表情や優しい口調はすごく覚えているのに顔だけ思い浮かびません。
それどころかその人の年齢も、さらに性別すら思い出せませんでした。
こんなことありえるのでしょうか。母はいまだに夢でも見たんじゃないの?と私に言います。
でも私は絶対に違うと思っています。
だって私は万引きを謝りに行ったその日にスーパーでその人に会っています。
あの記憶は絶対に本物です。
いつかもう一度その人に会えたとしたら、その人に胸を張って感謝の言葉を伝えられる人間になっていたいと思います。
ちょっぴり怖いですが、素敵なお話ですね。