万引きを止めてくれた人
投稿者:ぴ (414)
私はそんなことにも気づかず、駄菓子屋でやったときと同じように、万引きを企んでいたのです。
私が欲しかったのは甘い菓子パンでした。
大好きだったパンを手に取り、お店の人が見ていない隙に、パンをジャンバーのポケットに押し込みました。
そして、バレないようにお店を後にしたのです。
しかし、お店を出てから駐車場を歩いているところで、ポンと肩を叩かれて声をかけられました。
私は「びくっ」としましたね。
振り向いたら、大人がいて私は明らかに震えてしまいました。
万引きがばれて怒られると思ったからです。
その人は私のことを睨みもしなければ、怒ってもいませんでした。
すごく優しそうな顔でにこにこしてました。
だから私は最初万引きがバレていないと思ったんです。
しかし、その人はおもむろに私のジャンパーからパンを取り出しました。
「あ…」と小さな声が出たと思います。
今度こそ怒られるとぎゅっと目をつぶった私でしたが、その人は私をぶったり怒ったりしませんでした。
ただ「盗みは悪いことだよ」と優しく諭してくれたのです。
私はその人を見たことがありました。
いつも行くあのスーパーで働いている人で、お店の人だということは分かりました。
でもその人は私を警察に突き出したり、お店に連れ戻してガミガミ叱るなんてことはしませんでした。
お店の近くにあった公園のベンチで、私の話を聞いてくれました。
私が家でどれほど寂しい思いをしているのか、母が妹ばかり構っていることでどれだけ孤独を感じているのか、そして一度駄菓子屋で駄菓子を盗んでしまった話をただ静かに聞いてくれました。
そのあと、その人は私と一緒に駄菓子屋さんに行って、一緒に謝ってくれました。
お店のおばあちゃんは「それくらいいいわよ」と言ったのですが、私の代わりにチロルチョコを弁償してくれて、赤の他人なのに一緒に頭を下げてくれたのです。
そして万引きがどれほど悪いことなのかしっかり私に教えてくれました。
私は泣けましたね。
あまり人前で泣かないタイプの可愛くないスレた子供でしたが、この人の前ではすごくわんわん泣いた記憶があります。
翌日、万引きの話を打ち明けて、母と一緒にスーパーに謝りに行きました。
パンを万引きしたことを自分から話して、ごめんなさいを言いました。
母はひたすら申し訳なさそうにペコペコ謝っていましたが、なぜか私を責めることはしなかったです。
私はこうして万引き常習犯にならないで済んだのです。
スーパーから出ていくときに、お店の奥でそっと手を振ってくれるあの人がいました。
ちょっぴり怖いですが、素敵なお話ですね。