僕がテレビを持っていない理由
投稿者:キミ・ナンヤネン (88)
店長がそう言うと、スタッフと二人掛かりで台車に乗せ、一時保管用の部屋へ運んだ。
テレビを床に置いて雑巾で軽く汚れをふき取っていると、僕はある事に気が付いた。
「このテレビって、家にあったやつじゃ…?」
そのテレビの画面の右側には、僕が転んで持っていたおもちゃで付いた傷や、手垢の汚れ方が「それ」そのものだったのだ。
父がマニアに売却した後、巡り巡ってまた僕の所に戻ってきたのだ。
片付けが一通り終わった後、店長にこれは僕の家にあった物ですよと説明した。
その流れで、例の体験を店長に話すことになった。
家電と、ちょっとだけオカルトに詳しい店長はこう説明してくれた。
昔の心霊写真にはブラウン管のテレビ画面に人の顔や姿が写っている事がある。
しかし、薄型テレビが普及してきたとは言え、その画面に霊が映ったという話は聞いたことが無い。
ブラウン管は大雑把に言うと、発射された光を磁力で曲げてガラス面の裏側から投影する方式だ。
これはあくまでも仮定だが、霊はその光や磁力に引き付けられ、ブラウン管の中の空間に入り込むのではないか。
だとすれば、ブラウン管に霊が映っていたとしても何もおかしくはないだろう。
店長はそう言うと仕事に戻って行った。
僕はその説明には納得がいかなかった。なぜなら、あの女は画面に「表側から」反射していたからだ。
霊が「内部にいる」のなら、反射ではなく、画面に「内側から」投影されるはずなのだ。
すこし遅くなったが、このテレビの動作確認をしないといけない。
このテレビは地デジチューナーが付いてないから、DVDプレーヤーを繋いだ。
適当なディスクをセットして再生すると、テレビは正常に映し出すことができた。
他の端子に繋ぎ変えてみても正常に映ることが分かった。
付属の純正リモコンは無かったから、同じメーカーの別のリモコンで操作してみたが、全く問題なかった。
一通り動作チェックを終え、念のためテレビに切り替えると、画面は予想通り砂嵐となった。
アンテナさえ繋いでないのだから、これは当然の結果ではあった。
動作の結果を店長に報告をしようとし、テレビを消した。
画面は当然暗くなり、僕と僕の後ろにある棚やカレンダーが反射していた。
しかし何かがおかしい。
この部屋には僕以外誰もいないはずだ。
じゃあ僕の後ろに映っているこの女はなんだ?
そうだ、あの時の女だ!
そう思った瞬間、身動きが取れなくなった。
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