タクシーに乗った時の話
投稿者:キミ・ナンヤネン (88)
すると突然、
「お客さん、何してるんですか!」
運転手が私の体を掴んで力ずくでフェンスから引きはがそうとしていた。
「え…?運転手さん?」
運転手がなぜそんな事をしているのか、その時は気が付かなかった。
二人でタクシーに戻ると、運転手は私に教えてくれた。
「お客さん…、あなた、フェンスをよじ登ろうとしていたんですよ…。」
「何言ってるんですか、ただ景色を見ていただけじゃないですか。」
「いやいや、フェンスに足を掛けて、確かに登っていたんです。まるで飛び降りでもするみたいに…。」
「…そんなはずは…。」
確かに私はその時の自分の行動をはっきりと思い出せないでいた。
「実はさっきの橋はいわゆる自殺の名所っていうやつで、確か7~8人亡くなってるんです。」
続けて運転手は言った。
「そのうち、あなたがこのタクシーでは3人目になる所だったんです。」
「3人目?」
「前に乗せた二人は、どちらも橋の真ん中で降りて、橋を渡った所にある食堂まで歩いて行くと言ってましてね。」
「食堂…ですか。」
「今はもう、その店はありません。」
どうしても気になり、私はそのいきさつを聞かないではいられなかった。
「その二人って、その食堂が目的地だったんですか?」
「その時はそう思ったんです。でもそこには行ってません。結局、橋からの飛び降りが目的だったんです。」
「二人ともですか…?」
「二人ともです。もちろん、お互いに面識なんて無いし、自殺した時期も全然違うんです。」
そんな話をしているうちに私も運転手も落ち着きを取り戻し、タクシーは走り出した。
鉄橋を渡り終えるくらいのタイミングで運転手はスピードを落とした。
「あれがさっきの話の食堂…の跡地です。」
「あれですか…。」
食堂らしき建物は無かったが、その更地の一角に小さなお墓のようなものが見えた。
「あれって何ですか?」
「慰霊碑です。自殺者の為の。」
これぞ怪談といったお話ですね
面白かったです