タクシーに乗った時の話
投稿者:キミ・ナンヤネン (88)
仕事で、ある工場へ初めて行くことになった。
その工場へは電車に乗って最寄りの駅から出ている路線バスに乗る予定だったが、うっかり間違えて一つ次の駅で降りてしまった。
その駅から工場へのバスは無く、降りるはずだった駅までは近いので、時間に余裕があるから散歩がてら歩いて戻ることにした。
するとすぐに、運よくタクシーを見つけたので拾って乗ることにした。
タクシーに乗った場所はごく普通の住宅街なのだが、何かを祀っている祠のようなものがあるのが印象的だった。
「お客さん、どちらまで?」
「○○町の〇〇工場までお願いします。」
「〇〇工場ですね。かしこまりました。」
私は一人でタクシーに乗る時は後部座席の真ん中に座ることが多いが、この時はなぜか右座席に座っていた。
運転手と世間話などをしながら、タクシーは工場へ行く道へと向かっていく。
実は私は世間話が苦手なのだが、こちらから何もしゃべらないのも気まずいので、何気なく
「運転手さん、何かタクシーって怖い話をよく聞くんですけど、そんな体験ってあるんですか?」
と聞いてみたが、
「いや~すいません、特にそんなのは無いんですよ~。」
「そうですよね。変なこと聞いてすいません。」
私はそう言うと、少しの間沈黙が続いた。
タクシーは町を外れ、山の方へ向かっていく。
その途中に、大きな谷をまたぐ立派な鉄橋があった。
タクシーが橋の真ん中あたりまで進んだ時だった。
「運転手さん、ちょっとここで止まってもらえませんか?なんかいい景色なんで。」
「…またですか?」
「また?」
「いえ、なんでもありません。気にしないでください。」
そう言われるとかえって気になるものだ。それを察してか、運転手は続けて
「今まで2回、ここでお客さんを降ろした事があるんですよ。」
そう言って運転手はタクシーを鉄橋の車道の端に停めた。
「本当はこんな所で止まっちゃいけないんですけど、他の車も走ってないんで、ちょっとだけですよ。」
私はタクシーを降りると、車道と歩道の間にある低い柵を跨いで、フェンスへ近づいた。
フェンスには一目で後付けだとわかる金網が3メートルほどの高さまで伸ばしてあり、有刺鉄線まで設置してあった。
私はフェンスを両手でしっかりと掴まって谷間からの景色をぼんやりと見ていた。ただそれだけのつもりだった。
これぞ怪談といったお話ですね
面白かったです