底底底底底
投稿者:足が太い (69)
「ひぃ!」
「あ、驚かせてごめんなさい。あの、さっき同じ電車に乗っていた方ですよね」
「あ、ええと、そうですけど…」
「隣座ってもいいですか?」
「は、はい、どうぞ」
一瞬、幽霊かと思ったら、先程同じ電車に乗っていた女の人でした。
話を聞くと、女の人も電車を降りた後に森の中の1本道を歩いてみたのですが、何時間経っても一向に森を抜けないので、駅まで戻ってきたのだそうです。
「この駅、というか駅の外もですけど、何だか変な感じですよね」
「そうですよね、底底底って、こんな変な駅名の駅、初めて来ました」
「不気味ですよねぇ、幽霊とか出そう」
「やめてくださいよ、今深夜だし、話してたら本当に出そうじゃないですか」
1人でじっと待っていたので、知らない人とはいえ、話し相手が出来てホッとしました。
2人でしばらく「ここ変ですよね」なんて話していたのですが、ふと、おじいさんがいないことに気づいたんです。
もしかして森の中ではぐれたのかとか、それともあんなにピッタリくっついていたけれど本当は他人で、おじいさんだけこの辺に住んでて家に帰ったのかなとモヤモヤして、つい「そういえばおじいさんはどうしたんですか?」って聞いたら…。
さっきまでにこやかに話していた女の人が、顔をこわばらせて黙ってしまいました。
「ご、ごめんなさい、聞いたら駄目なことでしたか?」
「いえ、大丈夫です。こちらこそ変な反応しちゃってごめんなさい…。あなたにも見えていましたか?」
「え?見えていたって…、もしかして」
「あのおじいさん、絶対生きてる人じゃないです。私、あのおじいさんにこの駅まで連れてこられたんです」
女の人が言うには、本当はこの駅まで来るはずじゃなかったそうです。
しかし、おじいさんが隣に座ってきた瞬間、金縛りで体が動かず、この駅まで来てしまったそうなんです。
この駅についてやっと体が動かせるようになったので、すぐ電車を降りたのですが、振り向くとおじいさんはどこにもいなくなっていたのだとか。
左右は行き止まりだし、道は正面にしかないのに道を行き来してもおじいさんと会わなかったので、あれは絶対幽霊だと女の人は言っていました。
「あの、おじいさんに耳元で何か囁かれてましたよね?何て言われてたんですか?」
「大したことじゃないですよ、最後の駅で降りろ、最後の道で降りろってだけ…」
おじいさんの正体は何だったのか、この駅は何なのか、2人で話し合っても一向に答えが出てきませんでした。
そのうち始発の電車が来て、いつの間にか駅員さんもいたので、切符を買って逃げるように電車に飛び乗りました。
あれ以来、同じ線の電車に乗ってみたのですが、何度乗っても底底底…という不思議な駅に辿り着くことが出来ません。
あの不気味な森をずーっと歩き続けていたら、どこに到着していたのでしょうか。
もしかして、地獄の底にでも行きついていたのでしょうか。
お疲れ様です。
面白かったです。
何時間も森をさまよって駅まで戻ってきた
女性にあっぱれ