鈴女のお宿の怪奇
投稿者:上龍 (34)
短編
2022/01/27
22:57
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今年の冬、私は北陸の旅館に泊まりました。
そこは小さいながらも温泉があり、女将さんや番頭さんに手厚いもてなしを受けたのですが、夜に些か奇妙な体験をしました。
温泉で旅の疲れを癒しさあ寝ようと布団に潜った一時間後、突如として透き通った鈴の音が響き渡りました。
最初は空耳かと思ったものの、得体の知れない鈴の音は連続し眠りを妨げます。
暗闇に響く鈴の音の正体を突き止めようと布団を剥ぎ、スリッパを突っかけて廊下に出ると、着物を纏った女性が奥へと歩いていきました。彼女が帯に括った鈴を見てハッとしました。
どこへ行くんだ?疑問に思ってこっそり尾行してみると、女性は深夜の日本庭園に降り立ち、一際枝ぶりの立派な松に近付いていきます。
次の瞬間しゅるしゅると帯をほどいて枝に結んだかと思いきや、輪に首を通そうとするではありませんか。
「いけない!」
私が絶叫を上げると同時に女は消えてしまいました。枝に結んだ帯もなくなっています。
翌朝、この不思議な体験を膳を運んできた女将さんに話した所、大変気まずそうな顔で過去の出来事を教えてくれました。
何十年か前、この旅館で働いていた女性が庭の松で首を括ったそうです。
自殺の原因は当時の経営者との不倫で、松の根元には愛人にもらった鈴が落ちていたのだとか……。
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