てんぐのちご
投稿者:誠二 (20)
俺は5歳の時に家庭の事情で父の田舎に引っ越してきました。
父の田舎には奇妙な風習がありました。それは小学校に上がるまで男の子に女装させるというものです。さらに男児には本名の他に女の子としての名前が与えられ、そちらで呼ばれるのが普通でした。
「お前にも女の子の名前があるんだぞ」
「なあに?」
「椿だ。人に名前を訊かれたらそういえ」
突然父親に告げられても、当時は困惑するしかありませんでした。物心付いた頃から馴染んでいればまた違ったのでしょうか……途中から村に越してきた俺は、自分に存在していた女の子の名前にも、村の人たちが当たり前に受け入れてる変なしきたりにも馴染めません。
当時の頃の俺はかけっこやヒーローごっこが大好きなわんぱく坊主で、いきなり今日からスカートをはけだの髪を結えだの言われても反発しか覚えませんでした。
泣いて嫌がる俺を父と祖母は強く叱り、飯を抜かれることもありました。そんな日々が続くうちに次第に抵抗する気力が萎えていき、渋々現実を受け入れたのです。
(大人しく言うこと聞いてればひっぱたかれずにすむ……小学校に上がるまでの辛抱だ)
懸命に自己暗示をかけ、祖母のお仕着せのブラウスに袖を通し、フリフリのスカートを穿きました。
ある時、俺は探検ごっこと称して近所に遊びにでかけました。祖母には遠くへ行くなと禁じられていたのですが、こちらに越してきた時からずっと裏山の神社に興味があったのです。
その神社は苔むした長い石段を登った先にあり、地肌剥きだしの境内にはひんやりした霊気が漂っていました。
周囲には人っ子ひとりおらず、俺は小枝を拾って振り回したり、社の前の賽銭箱を覗いたりと好き勝手に過ごしました。十分ほど経った頃でしょうか、背後に近付く足音に気付いて振り返った所、同い年位の男の子がたたずんでいました。
「だれ?」
「てんぐのちご」
まだ幼稚園だった俺は、男の子が発した言葉にどんな漢字あてるかわからず混乱しました。
てんぐのちごを名乗る男の子は大変愛くるしい顔立ちをしており、肌も抜けるように白いです。
「一緒にあそぼ」
ちょうどひとり遊びに退屈していた俺は、初対面の男の子を誘って石蹴りを始めました。
石蹴り遊び自体はとても楽しかったのですが、やっぱり男の子の様子は変でした。この村の男の子は皆スカートをはいて髪を結び、女の子の装いをしているのに、彼はサスペンダーで半ズボンを吊った昭和のお坊ちゃんのような格好をしています。
神社の段差に腰掛け一休みしている時、だしぬけに聞かれました。
「きみの名前は?」
「椿と言えっておばあちゃんとお父さんが言った」
俺がそうこたえると、男の子はなんともいえない表情で黙り込んでしまいました。
「僕もお父さんの言うこと聞けばよかった」
急にしょげ返ってしまった男の子が心配で、間近で顔を覗き込みます。
「きみの名前は?てんぐのちご、じゃないんでしょ。女の子のかっこしないでうちの人に怒られない?」
次の瞬間ザザ、ザザと境内を取り囲む雑木林が不吉に鳴って、獣臭い風が吹き付けてきました。
「時間だ。むかえにきたぞ」
太い声に振り向けば、境内の片隅に忽然と男が現れたではありませんか。
見た目は大柄で赤ら顔のただのおじさんですが、そちらを向いた男の子の表情は瞬時に強張ってしまいました。
天狗の言い伝えってなると大体あの辺りかな?っていう地方が推察できたりするのがロマン
面白かったです
天狗って男の子が好きなのかな。
良かったです。
どこか切なさも感じる話
読み応えありました
ジャニー