目も鼻も口も無いのに笑う女
投稿者:まりんまりん (3)
あれは今から30年ほど前、わたしが小学4年生ごろの寒い冬の日の事です。
当時わたしは週に一回書道教室に通っていました。
その書道教室には幼馴染のユミちゃん(仮名)と通っており、自宅が近いわたしたちはいつも教室が終わると一緒に帰っていました。
わたしの住んでいたのは、岐阜県の山間部の田舎町で、冬になると日が暮れるのがとても早く、夕方から5時にはもう周りは暗くなっています。
そのため、冬場の教室では、どちらかの親が車で迎えに来てくれる事になっていました。
それが、その日はたまたまどちらの親も都合が悪く、迎えに来られないということで、二人で歩いて帰ることになったのです。
自宅までは歩くと15分ほど。街頭もまばらな暗い道を二人で並んで手を繋ぎながら歩き始めました。
寒さと暗さでとても心細かったのを覚えています。
でも、ユミちゃんがとてもひょうきんな性格で、学校の先生のモノマネをしてくれたりしたので、わたしは少し気が紛れました。
そして自宅まであと5分ほどというところで事件は起きました。
わたしたちは緩やかな長い下り坂に差し掛かりました。
ちょうど、下り坂を下り終わったくらいの右手に、ガソリンスタンドがあります。
ようやくガソリンスタンドの明るい電気が見え、自宅まであと少しとなり、また、下り坂ということでわたしたちの足取りも軽くなります。
すると、坂の1番下から女性がひとり歩いて来ます。
ちょうど、ガソリンスタンドからの電気の逆光となって、わたしからは女性のシルエットだけが確認できるような感じです。
その時は、特段気にとめることもなかったのですが、冬の寒さに不釣り合いに、女性のロングスカートが、ヒラヒラと風に揺れるような薄めのシフォンのような素材で、「季節外れだなぁ」「寒くないのかなぁ?」と思ったのを覚えています。
わたしはユミちゃんと手を繋いだまま、ユミちゃんのおしゃべりを聞きながら坂道を下っていきます。
ユミちゃんはわたしの左側にいて、わたしは車道側にいました。
ロングスカートの女性も、ひとり坂道を上ってきます。
だんだんわたしたちの距離が縮まりますが、相変わらずガソリンスタンドからの逆光で、女性の容貌は見えず、真っ黒なシルエットが確認できるのみです。
そして、わたしたちと女性の距離はさらに縮まり、ちょうどすれ違う瞬間。
女性からの視線を感じたわたしは、視線を正面から右側にゆっくりと移しました。
すると、やはり女性もわたしの方に顔を向け、わたしを見ています。
ずっと逆光だったガソリンスタンドの明かりが、女性の横顔を照らす形となりました。
それはちょうどわたしたちがすれ違う瞬間、わたしたちの距離は手を伸ばせば届く距離です。
女性は、確かにわたしの方を見ていました。
見ていたのです・・。
しかし、明かりに照らされたその横顔は、目も鼻も口も無い、ただの真っ白な「顔」だったのです。
一瞬時間が止まってしまったかのようでした。
すれ違うまでの2、3秒が、わたしにはなんだかストップモーションのように感じられました。
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