ヒトリカラオケ
投稿者:まりんまりん (3)
私が高校2年生の時の話です。
その当時、放課後に友達とカラオケに行くことが流行っていましたが、同じようなメンバーで何回もカラオケに行くことに飽きてきた私達は、段々と「カラオケ店の入口までは複数人で行き、そこから分かれて1人カラオケをする」という流行りに移っていました。(まだ1人だけで入退店するのが恥ずかしかった年頃でした。)
その日も放課後、女友達2人と某有名カラオケチェーン店に行き、入口で分かれそれぞれで1人カラオケをしようと約束をしていました。
そして放課後、じゃんけんで順番を決め、友人Aが最初に受付を済ませ、6階の604号室に入っていきました。
私も受付を済ませようとすると、友人Bが「1つ相談したいことがあって。実はまだヒトカラデビューもしたことなくて恥ずかしいのもあるし、Aには言ってあるから今日は2人で個室入ってくれない?」と言ってきたので、私達はAの部屋の隣の隣、602号室でカラオケを楽しむことになりました。
16時半頃に入室した私達は、19時頃にまた店のフロントで待ち合わせと約束をしていたので、時間はたっぷりありました。
私とBはいつもと変わらず歌ったり踊ったり世間話をしたり、盛り上がっていました。Bからの相談というのも他愛ない恋バナで、本当にいつもと変わらず楽しんでいました。
そして17時過ぎ、Aから一通のメールが来ていることに気が付きました。内容は「D君(Aの彼氏)に迎えに来てもらったので先帰ります。ごめんね。」というものでした。
そして間もなくしてD君からも着信がありました。「さっきAから泣き喚きながら電話が来て、たまたま俺も近くにいたから慌てて迎えに行った。お前とBにごめんって言ってて、今も泣いてる。ちょっと理由は分かんないんだけど、もしかしたら支払いとかしてないかもしれないから、申し訳無いんだけど立て替えておいてもらってもいい?とりあえず家に帰りたいみたいだから、家まで送ってく。」というような内容でした。
Aがいた604号室に行くと、確かに伝票があり、カバンとは別に持っていたAの荷物すら残っていて、慌てて出ていったことが窺えました。「親戚が倒れたとか、そういう急用かな。ほら、Aのおばあちゃんが今ちょっと体調悪くしてるって言っていたし。
心配だけど今日は色々忙しいだろうし、明日聞けばいいかな。」とBと話し、その後、テンションの上がっているBは、この機会にヒトカラデビューをする!というので、604号室はBが1人で使うこととなりました。
そして部屋が分かれておよそ10分後、Bから私に電話が来ました。今すぐに604号室に来てほしいと。「やっぱり1人じゃ恥ずかしかったのかな?」と思いつつ604号室に行くと、入口付近で呆然と立ち尽くしているBがいました。
少し様子がおかしいと思い、「虫でも出たの?」と聞くと、ひたすら首を横に振るB。
「⋯多分、マイクの中から声がする。」と、か細く言ったBの言葉の意味を、最初は全然汲み取れませんでした。
「マイク?マイクってかスピーカーから声がするのは自分の声が返ってきてるからでしょ?」と言うと、「マイクの中から聞こえた…。自分の声じゃない声がした…。」と。
まさか心霊現象のようなことを言ってるのか?とここでようやく気付きましたが、まだ私は半信半疑でした。
そして試しに当時人気だったJ-POPを流してみることに。イントロが始まってからも特に何も聞こえず、ふとBが使っていたであろうマイクを見ると、スイッチがOFFになっていました。何の気なしにスイッチをONにすると、途端に、「あはははは!!!!!!!」と幼い少女の甲高い笑い声がマイクの中から聞こえてきました。
驚き心臓が飛び出そうになりつつ、マイクのスイッチを切っても声は止まず、演奏停止ボタン等も全く効きません。
次第にマイクの中だけでなくスピーカーからも、そして笑い声だけでなく、「ママ」「助けて」「(言葉が聞き取れないほどの苦しそうな叫び)」がはっきりと聞こえてきました。
元々怖い話などが得意ではない私達は、あまりの恐怖に固まってしまいました。
そしてすぐに察しました。Aはこれを1人で体験したんだ、と。
1曲終わると聞こえてた声は全て聞こえなくなり、私とBは半泣きになりながらも慌てて荷物を取り、604号室を後にしました。
その後、602号室にも荷物を取りにだけ行き、逃げるようにしてそのカラオケ店を後にしました。
その日、家に着くまで604号室であった出来事は話題に出せず、お互い夢だったと信じ、忘れようと必死でした。
次の日、学校でAが昨日のことについて謝罪をしてきました。
言葉は濁していたものの、やはり私とBが体験したあのことが原因で、慌てて部屋を出ていったようでした。
「D君からも電話来たんだよ。もうAと合流した後だったみたいだけど、覚えてる?電話ですごい泣いてたから迎え行った、って。良かったね。」と言うと、Aは「え、私、電話したときは泣いてなかったよ…?怖くて慌ててカラオケ店は出たけど、お店の前で連絡してそのまま歩いて待ち合わせの駅まで行ったから⋯確かに会った時は安心したのもあってしばらく泣いちゃってたけど。」と。
私達の間に冷たい突風が吹いたように、途端に鳥肌が総立ちし、苦笑いすら出来ませんでした。
私はもはや、そのことについては言及しませんでした。
Aの記憶違いであってほしい、D君が聞いた泣き喚く声は何か通信障害によるノイズで、私達が聞いた声と異なっていれば良い、と願いつつ、言葉を飲み込み続けました。
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