目も鼻も口も無いのに笑う女
投稿者:まりんまりん (3)
完全にすれ違うまで、女性はずっとわたしを「見て」います。
わたしはなんだか、こちら側も目を逸らしてはいけないような気がして、わたしも完全にすれ違うまで女性を見ていました。
完全にすれ違って、10歩ほど歩いたでしょうか。
わたしは、左隣を歩くユミちゃんに、「ねぇねぇ、ユミちゃん。さっきすれ違った女の人の顔見た?」と尋ねました。
ユミちゃんは、「え?顔?見てないよ〜。」と、呑気な感じで答えます。
わたしは、声をひそめて「さっきの女の人、顔が無かったんだけど。のっぺらぼうだったよ。」とユミちゃんに言います。
するとユミちゃんはビックリして、「えっ!?」と大きな声をあげました。
わたしたちは、ふたり一緒に恐る恐る後ろを振り返りました。
すると、その女性は、わたしたちが下ってきた坂道のちょうどてっぺんに辿り着いており、坂道の上で立ち止まってわたしたちの方を見下ろしています。
下に位置するガソリンスタンドの明かりが、正面からその女性の姿を照らしています。
明かりに照らされたその顔は、やはり目も鼻も口も無い、真っ白な「顔」だったのです。
女性のロングスカートが、ヒラヒラと風に揺れています。
「顔」は無いのに、わたしにはその「顔」が、笑っているように見えました。
今度は隣のユミちゃんも同じようにその女性の姿を確認しています。
わたしたちは無意識にお互い繋いだ手を固く繋ぎ直しました。
そして、ふたり同時に「キャー!!」と大きな声をあげながら、一目さんに坂を駆け下りました。
「絶対に振り返ってはいけない。」
何故かそんなふうに強く思いました。
坂道を下りきればわたしたちの自宅はすぐでした。
それぞれに「じゃあね。バイバイ!」と言い、自宅に入るとすぐさま鍵をかけました。
ちょうど仕事から帰ってきて、着替えをしていた母が「どうしたの?」と聞いてきました。
わたしは先程の出来事を、呼吸するのも忘れるくらい一気に母に話しました。
母は「そんなことあるはずないでしょう。ただの見間違いだよ。」と呑気に言いました。
でも、絶対に見間違いなどではないのです。
わたしはこの目で確かに見たのです。
あの、目も鼻も口も無い、真っ白な「顔」を。
しかも、手を伸ばせば届く距離感で。
あの、凹凸の全く無い、のっぺりとした皮膚の感覚。
あれは絶対に見間違いなんかじゃありません。
わたしだけじゃありません。
※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。