「わたし、貧乏神って呼ばれてるんだよね」
俺が入れ込んでるガールズバーの店員――青姫は屈託のない笑顔を見せた。
「なんて酷い……誰がそんなことを!」
少し感情的になってしまったが、彼女は「落ち着いてよ」とハイボールの入ったグラスを俺の前に置いた。俺の贈った高級腕時計が、彼女の美しさを引き立てていた。
「わたし目当てのお客さんがどんどん落ちぶれていくのよね、普通に接客してるだけなのに。一昔前なら考えられないことね」
彼女と目が合って、俺の心臓が大きく跳ねた。
一瞬、いつも持ち歩いている婚姻届と結婚指輪が脳裏をよぎった。
俺は平静を装って会話を続けた。
「一昔前は違ったの? 想像できないな。その頃の写真とかないの?」
「ないわよ。あっても見せないけどね。
隠れて暮らさなきゃいけないような見た目だったもの。だから、もう聞かないで」
彼女にそんな時期があったなんて意外だった。控えめに言っても、今の彼女は完璧だ。
背丈はごく普通。女性らしい曲線を描く体つきに、吸い込まれそうな瞳。少し低めの甘い声で名前を呼ばれるだけで、胸が高鳴る。笑うと妙にあどけなく、年齢を聞けば260歳と答える茶目っ気まである。
男たちが落ちぶれていくのも当然だ。彼女を見ていると、声を聞いていると――いくらでも貢ぎたくなる。彼女を喜ばせられるなら、次は実家だって売り払う。
それにしても、貧乏神なんて侮辱は許し難い。
世の中には貧乏神と呼ばれてもしかたのない女だっている。半強制的に貢がせたり、催促したり。挙句の果てに、勘違い男に襲われた事例もある。でも、青姫はそんなことをしない。まあ、勘違いするバカな男が多くいる点は同じかもしれないが。
早く自宅を特定して、俺が陰から守ってやらなきゃな。
「どうしたの? 考えごと?」
彼女の声で我に返った。
「そうだな。君のことを『貧乏神』なんて呼ぶやつらが許せなくてね」
ハイボールを飲み干して、もう一杯注文した。
「でも、ホントのことだしね」
「貧乏神なんて、ボロボロの服を着たヨボヨボの爺さんだぞ。君とは全然違うじゃないか!」
少し語気が荒くなってしまった。それでも彼女は、優しく俺だけを見つめてくれていた。
「あ、ごめん。驚かせたかな? なにか飲むかい?」
「じゃあ、芋焼酎のお湯割りをいただこうかしら」
他の客には悪いが、青姫は俺に惚れている。安酒で俺の懐具合を気遣ってくれているし、なにより、目を見ればわかる。
「こんなに美しい君と、あんなみすぼらしい奴を同列に扱うなんて……」
青姫は「お待ちどうさま」とハイボールを俺に差し出し、お湯割りを一気に飲み干した。
「自分が変われば、結果も変わるのよ」
青姫は色っぽい息を吐いてウィンクした。俺には、その仕草に特別な意味が込められている気がした。



























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