たまたま見つけたオカルト専門の古書店で、終わりまで読むと呪われる本を買った。
くすんだ白い装丁の、タイトルすら書かれていない本だった。
眼帯をつけた隻腕の老店主に本物なのかを聞くと、「間違いなく本物だよ。コレクションとしてはオススメだが、読むのはやめた方がいい」と言われた。
店主が話を続けようとしていたけど、ネタバレを避けたかった俺はその言葉を遮って、本をひったくるようにして店を出た。
自宅に帰って、俺は早々に本を開いた。
せっかく買った呪いの本に、何が書いてあるのか気になったからだ。もちろん、終わりまで読むつもりはなかった。
表紙を開いても遊び紙はなかったし、タイトルも目次もなかった。すぐに本文が目に入ってきた。
――授業が終わり、ミサは放課後の教室で手鏡を開いた。
鏡には、化粧っ気のない少女の顔が映っていた。ミサは自分の唇を見つめた。どうにも血色が足りない。
彼女は右手の人差し指を口に含み、第一関節から先を噛みちぎった。
ちぎれた指先を飲み込むと、溢れた血を唇に塗り広げた。
ミサは呟いた。
「ねえ、あなたの指は大丈夫?」
本の中の台詞だったはずなのに、本当にミサの声が聞こえた気がして、我に返った。
右手の人差し指に痛みを感じて目をやると――第一関節から先がなく、血まみれだった。
慌てて本を閉じた。
何も書かれていなかったはずの表紙には、赤い文字でびっしりと何かが書き込まれていた。『艶めかしい舌』という文字が見えて、反射的に続きを読まないように手で隠した。
明らかに呪いだとしか思えなかった。
でも、物語は始まったばかりだったし、終わりまでなんてまだまだ先のはずだ。
耳元で甘えるような声が聞こえた。
「ねえ、わたしのことをもっと知ってよ」
手で覆えていない部分に『火照った少女の裸体』という文字が見えた。
「あなただけに教えてあげるから、わたしの秘密を」
俺は本を窓の外に投げ捨て、目を閉じて耳を塞いだ。
少しして、またミサの声が聞こえた。
「怖がらなくていいよ、死ぬわけじゃないからさ――すぐにはね」
薄く目を開けると、あの本が俺のすぐ近くに落ちていた。俺は再び固く目を閉じた。
一刻も早くこの本を手放さなければならない。
じゃないと、俺は――この本を終わりまで読んでしまう。



























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