『夜光』という雑誌を知っているだろうか、と書くには、知っている人が少なすぎる。
一九九五年から九八年にかけて発行された、B5判のミニコミ誌である。
内容は廃墟、ノイズ音楽、深夜営業の喫茶店、奇妙なアルバイト、街で拾った紙片など。号によっては自主制作映画や身体改造を扱った記事もあった。
編集していたのは、当時二十代だった四人の男女だ。
ワープロで打ち出した文章を切り貼りし、写真と写植を組み合わせて版下を作る。印刷部数は毎号三百部前後。都内のサブカル系書店やライブハウスへ置き、残りは私書箱に届いた申込書を見ながら郵送した。
第八号を最後に休刊。
編集部の解散後、復刊も総集編の刊行も行われていない。
現在、古書市場で見かけることはほとんどない。
その『夜光』の第七号には、同じ号でありながら内容の異なる冊子が存在する。
元編集人のMさんに会ったのは、昨年の十一月だった。
「最初は、若い連中が暇に任せて作っていたコピー誌でした」
途中から少し売れるようになり、印刷所へ出すようになったという。
第七号は表紙を含めて五十二ページ。モノクロのオフセット印刷で、二か所を針金で中綴じしている。
「印刷部数は三百二十部です。売れたといっても、印刷代が戻る程度でしたけど」
第七号の特集は「夜にだけ開く場所」だった。
終電後に営業を始める古着屋、看板のない会員制酒場、午前零時から四時までしか入れない雑居ビルの屋上。そのような場所を編集部員が訪ね、写真と短い文章で紹介している。
問題があるのは、四十六ページと四十七ページの「読者通信」だ。
読者から届いた手紙を掲載する、二ページの投稿欄である。
私が最初に確認した第七号は、Mさんの元共同編集者が保管していたものだった。
四十六ページには三通の投稿が載っている。
一通目と三通目は、当時のライブハウスや書店についての感想だ。奇妙なのは、紙面中央に配置された二通目である。
投稿者名は「屋根裏」。
古いアパートの最上階に住んでいるが、毎晩午前二時二十分になると天井から足音が聞こえる、という内容だった。
管理会社へ確認すると、上には部屋も屋根裏もない。しかし足音は必ず玄関側から窓側へ移動し、そこで止まる。
文章は、次の一文で終わっている。
〈天井を叩いたことはありません。向こうが、こちらに気づいていない可能性があるからです〉
ありふれた怪談の投稿にも見える。
ところが、別の収集家が所有する第七号を確認すると、同じ場所に別の文章が印刷されていた。
投稿者名は「公衆電話」。
閉鎖後の立体駐車場で公衆電話が鳴り、受話器を取ると、背後から複数の車のドアが閉まる音がするという。


























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