現在のように、パソコンを開けばすぐインターネットにつながる時代ではなかった。
電話回線にモデムを接続し、プロバイダのアクセスポイントへ電話をかける。
受話器の向こうで、ピー、ヒョロヒョロ、ガー、と耳障りな音が続く。モデム同士が通信条件を確認するネゴシエーション音が止まると、ようやく接続が成立した。
接続中は家の電話が話中になり、利用時間に応じて料金も増える。午後十一時から翌朝八時までの通話料金が定額になる「テレホーダイ」の時間帯には、各地のアクセスポイントへ利用者が集中した。
Nさんは一九九八年当時、地方の小規模なインターネット・プロバイダで回線管理を担当していた。
以下は、Nさんへの取材内容を整理したものである。
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——どのくらいの規模のプロバイダだったんですか。
会員は二千人に届かないくらいです。
地元企業や個人商店、大学生なんかが主な顧客でした。社員も少なかったので、回線管理からホームページの作り方まで、技術担当がひと通り対応していました。
——夜間も誰かが勤務していた?
常駐ではありません。
ただ、メンテナンスは利用者の少ない深夜に行います。テレホーダイが始まる午後十一時から午前一時ごろまでは回線が混雑しますから、それを過ぎてから作業することが多かった。
あの日も、私一人で接続サーバーの確認をしていました。
——何が起きたのでしょう。
午前二時ごろ、接続時間の異常に気づきました。
利用者がアクセスポイントへ接続すると、管理画面にユーザーID、使用中の回線番号、接続開始時刻、割り当てられたIPアドレスなどが表示されます。
その中に、三十七時間以上接続したままになっているIDがありました。
——長時間接続する利用者はいなかった?
いましたよ。
チャットやネットゲームをしながら、朝までつなぐ人は珍しくありません。個人ホームページを作って、アクセスカウンターの数字が増えるのを一晩中見ていたという人もいました。
でも、三十七時間は長い。
電話料金もかかりますから、切り忘れの可能性を考えました。
——誰のIDだったのですか。
test17です。
利用者のものではありません。アクセスポイントの開通試験に使っていた、社内用のIDでした。
——誰かがパスワードを知っていた可能性は?
最初はそう考えました。
ただ、そのIDは十七番回線の試験専用でした。外部へ教えるものではありませんし、パスワードも意味のない英数字でした。
もっとも、当時のセキュリティは今ほど厳密ではありません。社員の誰かが使った可能性までは否定できません。



























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