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心霊

シンヤさんによる心霊にまつわる怖い話の投稿です

ついてくるもの
短編 2026/08/14 11:19 55view

仕事を終えた健司が会社を出たのは、午後十一時を過ぎた頃だった。

終電にはまだ間に合う時間だったが、頭を冷やしたくて、彼はあえて一駅手前で降りることにした。住宅街を抜ける近道を通れば、自宅まで歩いて二十分ほどだ。

街灯がまばらな路地に入ると、自分の革靴の音だけが、やけに大きく響いた。

——コツン、コツン。

風もない、生ぬるい夜だった。アスファルトに落ちた自分の影が、街灯を通り過ぎるたびに伸びたり縮んだりする。それを見ているうちに、健司はふと違和感を覚えた。

自分の足音に、もう一つ別の足音が混ざっている。

——コツン、ぺた。コツン、ぺた。

革靴の音の合間に、素足のような、湿った音が一拍遅れてついてくる。

健司は立ち止まった。すると、その音もぴたりと止んだ。

「……気のせいか」

呟いて、また歩き出す。すると、また聞こえる。ぺた、ぺた、ぺた——今度は、さっきより速いリズムで。

振り返ろうとして、彼はやめた。なぜか、振り返ってはいけない気がした。代わりに、道端に停まっていた車のサイドミラーに、そっと目をやる。

ミラーに映る夜の路地には、誰もいなかった。

ほっと息を吐いた、その瞬間。

ミラーの中の自分の背中の、すぐ後ろ——そこに、白い顔が、にゅう、と覗き込んでいた。女とも男ともつかない、輪郭のぼやけた顔だった。

健司は走り出した。革靴のまま、転びそうになりながら、必死に走った。背後のぺた、ぺたという音は、もう隠そうともせず、すぐ耳元まで迫っていた。

ようやく見えた自宅マンションの階段を、彼は二段飛ばしで駆け上がった。三階の自分の部屋。鍵を鍵穴に差し込む手が震える。ドアを開け、中に飛び込み、後ろ手に勢いよく閉めた。

ガチャン、と鍵をかける。

肩で息をしながら、彼はドアにもたれかかった。心臓が口から飛び出しそうだった。

——大丈夫だ。家に着いた。もう大丈夫だ。

何度もそう自分に言い聞かせ、ようやく呼吸が整ってきた。

「……はは、俺、なにビビってんだ」

乾いた笑いが漏れる。玄関の暖かい照明が、さっきまでの闇を追い払ってくれるようだった。

さて、靴を脱ごう。

健司はうつむいて、自分の足元に目を落とした。

自分の黒い革靴。

その斜め後ろ——ちょうど、自分の右肩の真下あたりに。

濡れた素足の足跡が、ぺたり、と残っていた。

健司の思考が、止まった。

足跡の向きは、玄関の外側ではなく、彼と同じ方向を向いていた。まるで、誰かが彼のすぐ後ろにぴたりと寄り添って、一緒にこの家に入ってきたかのように。

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