商店街の角にある小さなコンビニで、私は夜番のアルバイトをしている。
六月の終わり、蒸し暑い金曜日の夜だった。二十一時を少し回ったころ、通りの向かいにある骨董店の前に人だかりができた。店主の有馬さんが、閉店後の店内で倒れているのが見つかったのだという。レジの金は抜かれ、ガラス戸の内側には血のついた指の跡が残っていた。
救急車と警察が来て、静かな商店街が急に騒がしくなった。
そのとき、店長が小声で言った。
「まずいな。翔平くん、さっき来てたよな」
翔平は商店街のはずれに住む三十代の男で、骨董店にもよく顔を出していた。間もなく警察に声をかけられた彼は、少し青い顔で、それでもはっきりと言った。
「俺は二十時四十七分にこのコンビニで缶コーヒーを買ってます。ほら」
差し出されたレシートには、たしかにそう印字されていた。
二十時五十分ごろ骨董店のシャッターが閉まったのを近所の人が見ていたらしい。その時間にうちの店にいたなら、犯行は難しい。警察官もいったんレシートを預かり、翔平の話を詳しく聞き始めた。
私はカウンターの内側で、その数字を見ていた。
あの時刻は、正確ではない。
三日前、店の裏でブレーカーが落ちた。そのときから、レジの内蔵時計は十二分遅れたままになっている。私は気づいて店長に言ったが、面倒だから後回しにされた。
だからレシートの二十時四十七分は、本当は二十時五十九分だ。
その瞬間、店の中の音が遠くなった。
翔平は、知っていたはずだ。
数日前、彼はレシートを見て言った。
「この店、時間ずれてますよ」
私はそのとき、ただの神経質な客だと思った。違ったのだ。彼は確認していた。この店の時刻が、使えるかどうかを。
私は警察官を呼び止め、停電の話と時計のずれを説明した。店長は最初きょとんとしていたが、レジの管理画面を開いて顔色を変えた。内部ログの時刻は、防犯カメラの映像ときれいに十二分ずれていた。
事情を聞かれた翔平は、最初こそ否定したが、やがて口を閉ざした。
その夜のうちに、彼は連れていかれた。
有馬さんは一命を取り留めたと、あとで聞いた。
翌朝、店長はレジの時計を直した。
「たった十二分で、人は自分を無実に見せられるんだな」
そう言って、レシートのロール紙をしばらく眺めていた。
私は返事をしなかった。
直したばかりのレジで、試しに一つ打った。
印字された時刻は、二十一時三分。
店の壁にかかった時計も、同じ時刻を指している。























※コメントは承認制のため反映まで時間がかかる場合があります。