大内さんは、大学で竹林の生態系について研究していた。
東北のとある竹林の調査中、食事休憩を取ろうと、林内の平場にあった大きめの石に腰掛けた。
「何してんだ!降りろ!」背後から浴びせられた怒声にギョッとしつつ振り返ると、見知らぬ老人が大内さんを睨みつけている。
言われたことがわからずにいると、再度
「どけ!」と怒鳴られ、言う通りにする。
「墓石にケツ乗せるバカがどこいる!」
そう言われ石をよく見ると、ところどころに文字の堀跡のようなものが、わずかにあるような気もする。墓石と言われてようやくそう見える程度だが、えらいことをしてしまったと、石に向かって頭を下げる。
老人にも謝罪すると、ようやく溜飲を下げてくれたらしく、しばらく立ち話をした。
曰く、これは隠れキリシタンの墓石である。キリスト教への弾圧は西日本の方が有名だが、この東北でも行われており、この村でも苛烈な弾圧の末に数名が亡くなった記録がある。
老人の家系では代々、お墓の管理をすることを引き継がれており、年に数度はお墓まで続く山道の刈払いを行っているという。
その後、高齢化や後継者不足、どこの村でも聞かれる愚痴に暫く相槌を打ったのち、お昼を食べ終えて調査を始めた。
「あとは頼んだぞー」
話し相手になってもらい、すっかり機嫌の良くなった老人のよくわからない別れの挨拶に、笑って手をふり返す。
調査後、山の所有者である老婆に挨拶し、改めて非礼を詫びた。すると老婆は、そんな墓石に心当たりはないという。また、隠れキリシタンの話もそんな墓守の風習も聞いたことがない。そんな爺さんにも心当たりがない、と怪訝な顔をする。
後日、大内さんが竹林に戻るが、探せども探せども墓石は見当たらなかった。目印にと至る所に結んでいたピンクテープはあるが、墓石も、墓石が寂しく佇んでいた平場も見当たらない。
その後も数年間竹林に通ったが、ついぞその墓石には辿り着くことはなかった。あの老人にも会えずじまいである。
そして今になって思い返せば、老人が男性だったのか女性だったのか、それすらも覚えていないそうだ。
























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