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不思議体験

とくのしんさんによる不思議体験にまつわる怖い話の投稿です

樹海の自殺志願者
長編 2026/02/01 08:22 210view

とあるキー局のプロデューサーが語った話。彼がプロデューサーとして一人立ちしたばかりの頃、あるドキュメンタリー番組を手掛けることになった。

“自殺者志願者と、どう向き合うか”

非常に重いテーマであったが、ドキュメンタリー番組に携わることが自身のキャリアにとって、プラスになると思ったこともあり、並々ならぬ意気込みだったそうだ。しかしそれが彼にとって忘れられない出来事に遭遇するとは、そのとき知る由もなかった。

「うちの局じゃ、あのロケのテープが『お蔵入り』になった理由は、表向きは『倫理上の配慮』とされています。でも本当の理由は、あの取材に関わった全員が体調を崩したり不慮の事故に遭ったからなんです。それだけじゃない。不可解な出来事も重ねりましてね、結局上層部から“中止”という判断を下されました。
あの日、富士の樹海で私たちが踏み込んでしまったのは、我々がが立ち入っていい場所ではなかったのでしょうね」

201X年の秋。私は特番のロケハンで、山梨県・青木ヶ原樹海を訪れていました。 同行をお願いしたのは、地元で自殺志願者の保護活動を続けるNPO法人の代表・吉田さん。
吉田さんは、かつて中学校の教師でした。しかし十数年前、自身のクラスでいじめを苦に自ら命を絶った教え子を救えなかった過去を持つ。その深い悔恨が、彼をこの森へと駆り立てました。

「救えなかった命を、一つでも多く拾い上げる」
それが、彼が教育現場を去り、NPOを立ち上げた理由でした。今回の探索には、吉田さんの志を継ぐ若手職員の佐藤くんと鈴木さんの二人も同行し、総勢六名での探索となりました。

樹海は、外から見る美しさとは裏腹に狡猾な迷宮です。 溶岩が冷え固まってできた大地は、無数の空洞と鋭い突起を隠し、その上に厚く湿った苔が絨毯のように這っている。一歩踏み出すたびに、足元から「・・・グチャッ」と、肉を握りつぶすような不快な音が響きました。鳥の声一つせず、ただ自分たちの荒い呼吸音だけが、粘り気のある空気に閉じ込められているような錯覚すら覚えるだったと記憶しています。

探索三日目。道なき道を進む私たちの前に、不自然な光景が現れました。 少し開けた、陽光が腐った沼のような緑色に淀んで見える場所。一本のナラの木に、真新しい白い紙が画鋲で留められていたんです。

『僕を探してください』

マジックで書かれたその文字は、子供のような幼さと、定規で引いたような無機質さが同居していました。
「吉田さん、これ・・・」

見つけた佐藤くんの声が震えていました。吉田さんはその紙をじっと見つめ、痛ましい表情で呟きました。

「自ら命を断とうとする人間には、二通りいるんです。自分を見つけてほしい、止めてほしいと叫ぶ人間。そして、誰にも知られず、ただ消えたいと願う人間・・・。これは、前者かもしれない」
かつての教え子を救えなかった記憶が、彼を動かしたのでしょう。吉田さんの指示で、私たちは周囲を探索することにしました。すると、まるで私たちを誘うかのように、次々と貼り紙が見つかるんです。

『僕はこっちです』
『僕はすぐ近くです』
『早く見つけてください』

進むにつれ、周囲の景色は歪んでいきました。木の幹は苦悶にのたうつ蛇のようにねじれ、足元の苔の下からは「パキリ、パキリ」と、乾いた枝。あるいは骨を折るような音が、どこまでも付いてくる。不気味さを超えた、明確な『悪意』に手招きされているような感覚に、全員底知れぬ雰囲気を感じていたに違いありません。

ついに辿り着いたのは、抉れたような窪地でした。 そこにある大木から、一人の男がぶら下がっていた。事切れてからさほど時間は経っていない。しかし、その死体以上に私たちの魂を凍らせたのは、その足元に貼られた最後の一枚でした。

『それは僕ではありません』

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